第13話「きもちわるー」
鳥の群れが羽ばたく音がした。意識が少しだけ浮上すると、慣れない地面の硬さに寝返りを打つ。寝心地は最悪で、首が痛い。ピークは過ぎたと言えど未だに熱帯夜で、じんわりと肌にまとわりついた汗が心地悪かった。
ナハトはそっと目を開ける。満天の星空が視界に飛び込んでくると、今置かれている状況を思い出してきた。そうだ、確かシルヴィとエロ魔道士を追って____!
ガバッと飛び起きると、隣で寝息を立てていたエスが不機嫌そうに呻く。兵士の武装は全て解除され、かろうじて手元に剣が置いてあるだけ。本当にそれでいいのか、防御力無さすぎっつか腹出てるし……無防備だなオイ。ナハトは少し心配に思いつつ、エスの服をグイグイと引っ張ってお腹を隠してあげた。お兄ちゃん基質は抜けないのである。
「さて……今、何時だ」
呟きは湿った空気に溶けて消える。薄闇の中ナハトが立ち上がると、一瞬何かの気配がした気がした。異質な風に汗は引いていき、ナハトは闇の向こうを凝視する。
何かが居る。
身体が勝手に強張ってしまい、呼吸すら忘れてしまいそうになる。静寂の後、星明りに照らされたそれの双瞳が赤く光った。鳥肌が立つもなお、金縛りにあったように行動はできない。
(これは、
「よいしょ」
「ぎぇっ」
サクッと軽い音の後、蛙が潰れるような音がした。途端に異質な空気は消え、身体の緊張がほぐれる。思わずその場に座り込んだナハトの前で、エスは静かに剣をしまった。何か言いたそうなナハトに先んじて口を開く。
「ナハトは初めて遭遇したでしょー。魔物バージンを喪失した感想はどうー?」
「うっせえ、バージンって言い方がキモい!」
「あはは、冗談だよー。でも、うん。ただの動物とかとはやっぱり違うよねー、さっきの熊とは比べ物にならない。きもちわるー」
うへえ、と舌を出しておどけるエスに、ナハトは鋭い視線を向けた。やっとのことで立ち上がると、今更ながら震える両手に力を込める。近くの木に止まったカラスが、カアと一つ鳴いた。
「アンタ、あんなの大勢……」
「あー待った待った。話は後でねー、とりあえず残りを始末するからさ」
残り? とナハトが頭の上に疑問符の乗せたところで、エスはにししと目を細めた。
「一体魔物を見たら、五十体は居ると思えってね」
防具は一切無し、剥き出しの剣一つを片手に持ったまま森の奥へ消えたエス。足が速いようで、ナハトはあっという間に彼を見失った。行き場のない手を乱雑にポケットに突っ込みつつ、じとりと彼の去った方向を見る。
「魔物をゴキブリ扱いしてんのかよ」
でも、と一人静かに回想する。あんな気味の悪いものを、エスは一人で山村5つ分、昨晩だけでほぼ殲滅したということだ。それはつまり。
「あいつ、実は無茶苦茶強いんじゃね……?」
ギャップ萌えとまでは言わないが、あんなチャラけた奴がエリートだと思うとなんだか悔しくもある。ナハトは口元を引き締めると、両腕の袖をまくった。
「俺も鍛えないと……とりあえず腕立てから、」
200回が限界だった。
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