第27話「皮肉なものだな」
「お嬢さん大丈夫? 災難だったねー」
「じ、自業自得なのでっ」
「これだからあの変態王様はー……」
俺の部屋を出ての第一声は丸聞こえだ。エスはわざとやっているのだろうか。もしも故意なら、あいつの馬でも取り上げてしまおう。
だが、俺が早計だったのも確かである。あの少女には悪いことをした、明日改めて詫びよう。
俺は仕事机に戻ると、書類の山の一部を手に取る。手早く確認し反対側に置いたところで、ふと立ち上がった。
「あの村娘は、普通の少女だったな……」
ならあの魔道士との関係は、本当に浅いのだろう。魔道士は溺愛していたようだが、少女の方はどうなのだろうか。昼の様子を見る限り、二人は相思相愛というわけではないらしい。いつ出会ったのか、何があったのか。まだ聞かねばならんことはごまんとある。
俺は部屋の隅にある、小さな棚の前に立った。棚の上にある鳩の像へ向かって、拳を振り下ろす。ズ、と像がめり込むのは仕様だ。像の周りも共に凹んだため、今度は鳩の像を右に押しやり、元の高さに戻すイメージで上へ引っ張った。
途端に床が開き、棚が真下に落ちる。棚の背面だった所には大きな穴があり、屈めば容易に入れる大きさだ。一種のからくり扉というものである。
半ば這うようにして、やや下り坂のそれをしばらく進む。するといきなり真っ暗な部屋に出る。置かれたマッチを探り当て点火し、近くのロウソクを灯していく動作は手慣れたものだ。幼少期に父から教わり、その後定期的に通っていたのだから当たり前かもしれないが。
そこは大きな書庫だった。初代国王、勇者リゼノアの頃より王族にのみ受け継がれる秘密の場所。数多と置かれた本の数々は、全てテーマが共通していた。
「魔物……まさか、この俺が国を治める世に解き放たれるとは。皮肉なものだな」
勇者の血族は本来、魔物や魔物の魔力を跳ね除けられるものだ。それなのに自分は、簡単に奴らの支配下に置かれた。聖痕も無い、あるのは自ら鍛え上げた肉体と培った知恵だけだ。物理攻撃の防御には自信がある。しかし、今日確信した。
俺には魔法を防御する術が無い。
「やはり、俺は王の器では無い」
俺の他に男が生まれていればよかったのだが、生憎そうはならなかった。これも運命と受け入れるには少々酷なものだ。
まあ、王になってしまったものは仕方がない。俺はいつの間にか詰めていた息をゆっくり吐き出すと、右奥の書架へ真っ直ぐ進んだ。一冊の本を手に取り、埃を払う。
「……とにかく」
今は魔物への対抗策を考えねばならん。無論、他国との友好関係も保ちつつだ。
俺はモノクルを掛け直し、ロウソクの灯りを頼りに文字を読み解いていく。既に読んだ本だが、だからといって読まない理由にはならない。
「魔物だけでは無いのだ」
勇者が封じたのは、魔物だけでは無い。それは勇者本人が綴っている。古びた書物は酷く傷んでおり、詳細まではわからない。だが、そのことだけは明白である。
ページを一枚ずつ、丁寧にめくっていく。俺はしばらく時を忘れ、古の記憶を読み耽ることにした。
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