第51話「男じゃ無理?」
「お前はもっと警戒すべきなんだよ。わかったかおん__」
「次は誰だ……」
(なっ⁉)
このタイミングでかよ⁉
俺はギョッと目をまたたかせる。目の前にはドアップのガルシア様の御顔。キスでもしようと思ったのか、互いの吐息がやたら混じり合う。ガルシア様は心底うんざりした顔つきで俺の耳朶を打った。
顔はそのままその位置に、俺は視線だけを動かして辺りを探る。案の定アグネはのされたらしく、部屋の隅で気絶したまま横たわっているみたいだ。ちなみに、人間とは違って一部の魔物は身体と中身が一体化してるんだぜ。どうやってアグネを引っ張り出したのかは知らんが、そこはガルシア様の手腕ってトコだろう。
「あ、あー。コホン」
あっ、やっぱりあの女の声だ。視線を下にやると豊かとは言えないものの確かな膨らみが二つある。畜生、ガルシア様のじゃなかったら良かったのに……。
「何を考えてる」
「やっ、やだなあガルシア様。俺ですよジンクです」
「知らない人……」
ふるふると頭を振ったガルシア様に、俺は頭が痛くなる。
なんで知らないフリをする必要がある? まさか本当に忘れちまったのか?
もしそうだとしても関係ねえが、ちょっと傷つくなあオイ。
「……俺は魔物側なの?」
「え?」
「なんでもない。それよりもシルヴィ」
「ああ、そうですね。んじゃ少々お待ちをっと」
女の身体の中、アグネが歪めたものを一つずつ元に直す。段々居心地の悪くなるそれらに、俺は自然と口に弧を描いた。
女はガルシア様と同じ人間だ。ガルシア様には下手な魔物と添い遂げるより、この女と一緒になってほしい。悪女でもねえしアグネみたいに厄介でもねえからな。
にしても、常に勇者の加護の恩恵を受け、そうでない時はガルシア様の魔法陣が付与されてる。なんなんだ本当、この女ヤバいだろ。
「ねえまだ?」
「もーちょい」
(こいつは一体)
「ジンク」
「はいなんでしょう」
俺の名を呼ぶガルシア様。久々だからつい応答に喜びの色を隠せなかった。まあ無視されたけどよ。
「シルヴィが戻っても、逃げるなよ」
「どういう意味なんで?」
「魔物は捕らえろって言われてる」
「あいつに」とガルシア様は机の方を指した。そこにはアグネの魔法が解けてもなお目覚めない男の姿が。あの身なり、ガルシア様の言い分からして上の立場……王ってトコか。勇者の末裔の癖に弱っちいもんだ。
「別にいいぜ。俺はいつでもアンタの味方なんで」
「そう……」
「しかし、ちょっとマズいかもしれません」
「?」
俺は手を開閉しながら、眉間にシワを寄せた。ガルシア様は不審そうな目で続きを促してくる。「いやね」と俺は手から彼の目へと視線を移した。
「アグネと違って俺残りの魔力少ないんですよ」
「でも、シルヴィを戻すのはお前しかできない……」
「まあね、今は俺の領域で丁重にお預かりさせてもらってるんで」
「どうすればいい」
どうすればいい、か……。
言わずもがな俺の種族は
「二、三人女を寄越してくれりゃあ勝手に補給しますぜ」
「それは無理」
「デスヨネー」
まあ色恋情愛系統はまるで頼りにならないのがガルシア様だ。そこんとこ紳士なんだから……んだ、カッコいいけどよ。
ガルシア様は伏せ目がちに何やら考え事をしていたが、すぐに真剣な瞳をこちらに向ける。
「男じゃ無理?」
「へっ?」
「異性じゃなくても大丈夫なんじゃないの?」
「……ああっ! ガルシア様っ、おま、まさか⁉」
止めろ! 敬愛だから羨望だから断じてソッチではねえから‼
やめっ!
「「……」」
……やっば。えげつねえ魔力が流れ込んできやがった……。
口を離したガルシア様は、俺と違って顔つきが変わらない。口をぐしぐしと拭って、目を細めてくる。
「おえ……」
「早くしろ」
「あ、ハイ……」
くっそ、俺に男色の趣味はねえからな!
熱い頬に手の甲を当て、ヤケクソになりながら今貰った魔力総出で事を進めた。
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