第37話「任せてくれたまえ」
バムがソワレに頼み事をした翌日。
彼女が訪れたのは、少年と出会った店。少し日当たりの悪いこの店には雑多な商品が並べられており、はしごを使わないと棚の上の方に手が届かない店主が一人で営んでいる。
バムはほうきを片手に、ンーの前で胸を張った。
「どうやら、城までは時間も金も結構かかるらしい。だから私が、自分の手で! 金を稼いでみせようとここに来たのだ!」
「なるほど〜、大体はわかったけどなあ」
(こんな人気のない便利屋で働いたところで、目標金額まではいくらかかるのやら)
うーむむ、と全力で自虐するンー。瓶底眼鏡をくいっと上げて、自分よりずいぶんと高い女性を見上げてみる。やっぱり近くで見ると胸が大きすぎて顔が見えない。舌打ちしたくなってくるほどにたゆんたゆんだ。
気を取り直したンーはお店のドアをよいしょと開けて、夏真っ盛りの外を指さした。
「とりあえず、適当に店の前を掃除してくれるか? あ、暑さに辛くなったらすぐ戻ってくるんだぞ!」
「任せてくれたまえ」
ほうきをその場に置いて外に出たバム。ンーは「えっ!?」とバムの置いたほうきを抱えて持って後に続く。ほうきも無しに掃き掃除なんて、何を考えているのか。ンーは立ち止まったバムに話しかけた。
「バムちゃん! ほうき!」
「そーれっ!」
バムが太陽に向かって両手を振り上げた瞬間。地面から天空に向けて爽やかな風が吹き抜ける。スカートがめくれ、慌てて抑えるンーに対し、バムは気にも留めずに「にしし」と笑った。
舞い上がったのは店の前のゴミだけではない。埃、塵、落ち葉にポイ捨てされたもの。街中の汚いものが一目散に空へ持ち上げられる。人々の喧騒の中、それらは店の上空で一つになる。
「いやいやデカすぎだぞこれ!?!?」
「へっへっへ、みんな綺麗な
空にかざした両手を、ぱちんと叩いたその刹那。ゴミは膨れ上がり虹のように光ると、たくさんの鳥や蝶に姿を変えた。各々が各々の思うまま、彼方へと飛び去っていく。
まるで夢のようなその光景に、街中の人々が釘付けになった。バムのしたことは、簡単に言えば町内美化だが、やり方がえげつない。
(これは報道されるレベルだよな……バムちゃん……)
「ふふん、これでよし!」
満足げに戻ってくるバムを呆然と見上げつつ。この件で街中で話題となった便利屋が儲かりまくることを、ンーはまだ知らない。
そして、城から偶然見ていたガルシアが眉をひそめたことも、バムは知らない。
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