第41話「しょ、少年っ」

「ありがとう」

「……まったく! 無茶しないでくれたまえよ少年ー!」


 私の数少ない信者なんだ、これ以上減ったら困るじゃないか。貴重な魔力の供給源なんだから。


(……何故だか、そう思えないんだよなあ)


 両頬に添えられた少年の手。少し大人に近づきつつあるそれの感触に、バムは小さく息を吐く。

 彼の目は、日に照らされた草原の色に似ている。光が満ちて宝石のようだ。整った顔立ちだから、大人になったら女性の人気が後を絶たないだろう。そう思って彼女は、瞳を伏せた。


「少年」

「……」

「ソワレ」

「あっ! ご、ごめん」


(名前で呼ばれた)


 彼の思ったことがそのまま表情から汲み取れて、バムはむふふと笑ってしまう。立ち上がった少年をじーっと見上げ、口を開かないままニヤけていた。気恥ずかしさと居心地の悪さから、ソワレはちょっと眉をひそめて言葉を紡ぐ。


「な、何」

「少年はいつも女性を可愛いと褒め称えるが」


 言葉を区切って立ち上がるバム。沈みゆく太陽を背に、服についた砂塵を払うと歯を見せて笑った。


「少年こそ可愛いからな」

「なっ! それ失礼じゃない?」


 耳を赤くさせて反論するソワレ。バムは適当にいなして、くるりと太陽の方を向く。両手を大きく広げ、肺にたっぷり空気を取り込んだ。


「我が名はバム! 生命の終わりと始まりを司りし女神! 偉大なる白魔道士ー!」

「えっ、え?」

「なあ少年。意外と早く金が集まりそうなんだ。だから」


 バムはまたソワレの方を向く。そよ風が、彼女の黄金の髪を撫でていく。


「ソワレ。君にも着いてきてほしい」

「……城までってこと?」

「ああ。ま、正確には道案内だけども……」


 どうだ? と若干不安げな声。心配そうに口元を歪ませた女神に対して、少年の心は決まっていた。


「いいよ」

「本当か少年!」

「だってほら。僕、一応バムさんの信者だし。それにさ」


 ソワレはバムの手を取ると、少しだけ親指で擦った。掬い上げた白く綺麗な手に、ちゅ、と唇をつける。


「しょ、少年っ」

「こんな綺麗なお姉さんにそんなこと言われたら、着いていくしかないでしょ?」


(こ、これが15歳……⁉)


 将来どうなってるのやら検討もつかない。

 りんごに負けないくらい赤くなった女神に、少年は更に畳み掛ける。その場に跪いて微笑むと、高らかに宣誓した。


「イヴェン村、ロペス家五男ソワレ! 女神バムの信者として、全信仰を貴女に捧げると誓います!」

「……ああ。よろしく頼むよ」


 太陽と月が交わる頃、女神と少年は堅く手を握った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る