第9話 ジェラルド様がいいんです。

 さてオレとラファエルの健やかな未来の為にも、攻略対象に接触を図らなければならない。


 攻略対象の内一人は主人公を同じ年。

 つまりまだ生まれていないので、残念ながらまだ接触することはできない。

 だから消去法でオレは残る一人に会うことになった。


 そいつは毎日王城にいる訳じゃない。

 そいつが確実に現れると分かっている月に一度の舞踏会の日、オレはそいつに接触した。


「おや、君は……?」

「宮廷魔術師ディノワールの息子、マルセルです!」


 ちなみにオレはまだ小さくて舞踏会に出れない。

 城の入口に潜んで、目的の人物が来たのを見計らって姿を現したのだ。

 彼は小っちゃな子供が突然飛び出してきたのに目を丸くしている。


「へえ、君が。お会いできて光栄だよ。私はジェラルド・エルヴェシウス。よろしくね」


 彼はわざわざ片膝を突いて手を差し出してくれた。

 その手を握って握手する。


 そう、攻略対象とは公爵子息ジェラルド・エルヴェシウスのことだ。

 今はまだ15歳の彼。だが主人公が王城に来るまでの18年間に彼の父親は早逝し、彼は若き公爵となる。

 『みこおう』の第二の主人公とも言えるほど公式に贔屓されているのが彼だ。


 公爵が子供の頃はこんな顔をしているのか……としげしげと眺める。

 大人になれば眉間に深く刻まれることになる皺はまだ見当たらない。


「それにしてもどうしてこんな所に? 一人?」


 ジェラルドがきょろきょろする。

 今日はお付きのメイドもラファエルも連れていない。


 何故ならコイツこそが、主人公不在時にラファエルをたぶらかしてオレをデッドエンドへと導く存在だからだ!

 18年後には兄に虐められている可哀想な悲劇のヒロインラファエルを見初めて手を差し伸べる。そして主人公がラファエルルートを選んだら恋のライバルを演じたりするのだ。


 年の差を考えろ、12歳差だぞショタコンめ!

 と思わず睨み付けてしまいそうになるが我慢する。

 今日は彼と仲良くなりに来たのだから。


 しかしジェラルドは15歳。

 5歳のルイと違って、遊んでいるだけで仲良くなれる相手ではない。

 というかまず遊んでもらえないだろう。


 だから彼と距離を詰める作戦をバッチリ考えてきた。

 息を大きく吸ってその言葉を口にする。


「ジェラルド様、僕を弟子にして下さい!」


 頭を下げて頼み込んだ。

 作戦とは彼と師弟関係を結ぶことだ。


「おやおや、弟子なんて言われても私は君に教えられることなんてそんな……」

「ジェラルド様みたいにフェンシング上手くなりたいんです!」


 ジェラルドはフェンシングが得意だということは『みこおう』のイベントで知っている。そのフェンシングの腕前でラファエルを襲おうとしていたマルセルの胸を貫いて殺すからな。

 思えば自分を殺す剣を習いに行くとは皮肉めいた状況だ。


「ああ、城で試合した時に何処かで見てたのかな?」

「はい!」


 見てないけど淀みなく嘘ついた。


「でも君はまだ小さいだろう? まずは沢山食べて沢山遊びなさい。剣術をやる前に大きくならないと」


 年齢を理由にすげなく断られてしまった。くっ、手強い。

 5歳からフェンシングを始めたっていいじゃないか。英才教育だぞ。


「でも……っ!」


 こうなったら最終手段だ。

 幼さを全力で活かして彼の服にぎゅっとしがみ付き、上目遣いにジェラルドを見つめる。ラファエルから学んだ手法だ。


「そんなに私がいいのか? 困ったな。君ならこんな若造じゃなくて他にいくらでもベテランの剣の師匠を付けてもらえるだろう」


 彼が困惑しながらも照れ笑いする。

 よし、効いてる。もっと畳みかけるぞ!


「ジェラルド様がいいんです」


 ラファエルの天使のような顔をイメージしながら瞳を潤ませる。


「……わ、分かった。でも私の一存で決めることはできないから、まずは君のご両親に相談してみよう。いいね?」


「はい!」


 心の中で「よっしゃー!!」と快哉を叫びながら、顔を輝かせてこくこくと頷いたのだった。

 よしよし、これを足掛かりにジェラルドの心を鷲掴みにしてやる……!

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