BLゲーの当て馬キャラの悪役貴族に転生したので、他の奴らをくっつけてこの場は凌ぎます

野良猫のらん

第一部 悪役貴族は攻略対象に殺されたくない

第一章 五歳児編

第1話 マルセル、大丈夫?

 キラキラ、きらきら。

 宝石が目の前で砕け、煌めきながら散っていく。

 何故かそれがとても大事なことのような気がして……


「……ッ!」


 その瞬間、オレはすべてを思い出したのだった。


 オレはごく普通の社畜だった。

 たまの休日にゲームをプレイするぐらいが趣味のな。

 それが突然、だ。


 "死ねぇ! 死ね、死ねッ!"


 通り魔に刺されて死んだ。

 それがオレの人生だった。


 理不尽な終わりを迎えた前世の記憶。

 それを唐突に思い出したオレは、あまりの衝撃にその場で失神してしまったのだった。


 *


「マルセル、大丈夫?」


 目を覚ますと可愛らしい少年の声が降ってきた。

 海よりも深い蒼い瞳がオレを見下ろしていた。


 身体を起こして辺りを見回す。

 見たことのある部屋だ。


「ここは……王城の医務室か」


 そう、王城。

 今世でオレが暮らしている場所はお城なのだ。


「マルセル、大人みたいな喋り方してどうしたの?」


 そして心配そうにオレを見つめるこの少年こそが――――この城の王子様なのだ。


 状況を整理しよう。

 自分の身体を見下ろす。

 そこにあるのはもちろんくたびれた社畜の身体などではない。

 暗褐色の小っちゃな幼児の手だ。

 それもそうだ、今のオレは五歳児なのだから。


 今まで生きてきた5年分の記憶がしっかりとある。

 少なくとも物心ついてからの記憶はしっかりと。

 だが前世の二十数年間の記憶もあるから、妙な気分だった。


 名前はマルセル・ディノワール。

 この城の宮廷魔術師の息子だ。

 王子様と同年代だからとよく一緒に遊んでいるのだった。


「これって異世界転生って奴か……?」


 特に体調に異常なしと判断され、自室に戻されたオレは呟く。


 自分の手を見上げる。見事な黒い肌だ。

 前世とは違う人間になったんだということを否が応でも認識させられる。

 ちなみに鏡を見たら、ややツリ目ではあるものの可愛い顔をしていた。

 将来はきっとイケメンに育つことだろう。


「チートハーレム人生がスタートするんだろうか……」


 何度か行った魔力判定の儀のことを思い出す。

 透き通った緑色の液体が入った小っちゃな瓶を握れば体内の魔力量が判定できるらしい。

 オレはこれまで何度かそれを握らせられたが何も起こらず、お母様は「まだ小っちゃいからしょうがないわよ」と言ってオレの頭を撫でたのだった。


 ……え、それって駄目では?


 前世の記憶を取り戻した今なら分かる。

 それって明らかに結果が駄目だったから慰められていると。


 …………え?


 オレの異世界人生、まさかの魔力ゼロスタート!?

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