第6話 マルセル様はすっかりお兄ちゃんになられましたね
「にいちゃま!」
勉強の時間が終わって自由になったオレにラファエルが駆け寄ってくる。
だが途中で躓き、べしんと転んでしまう。
「わぁああああ~~っ!!!」
大粒の涙を零して泣き出すラファエル。
普段物静かなラファエルが大声を出すのは、こんな風に泣く時くらいだ。
「大丈夫かラファエル、痛かったろ。怪我してないか?」
駆け寄って行って、ラファエルの身体を確認する。
大丈夫だ、ラファエルの小っちゃな白い身体に傷はない。
「ふふ、マルセル様はすっかりお兄ちゃんになられましたね」
家庭教師係の青年がにこりと微笑む。眼鏡をかけた二十代後半の青年だ。
最近ではオレとラファエルが二人でいると、彼のようにニコニコと眺める大人が多い。
まあ、大人からすれば小っちゃな子供が二人一緒というだけで微笑ましいものなのだろう。オレから見てもラファエルは可愛くて癒されるし。
もしかすれば、傍から見るとオレは兄の自覚を持った途端わがままな子から良い子に変貌したようにでも見えているのだろうか……。
「にいちゃま~っ!!!」
「よしよし、痛いの痛いの飛んでけー」
がしっとオレの服を掴んで泣きついてくるラファエルの背中に手を回し、ぽんぽんと優しく叩いてやった。
「うぅ~~……」
ラファエルがオレの服に顔を擦りつけて涙を拭く。
服に鼻水がつき、びよーんと伸びた。
「どうぞ」
青年が白いハンカチを差し出してくる。
この青年は主人公の攻略対象ではないので安心して接することが出来る。
確か名前はリオネル。ゲーム中では攻略対象ではないながらも、比較的登場回数が多い印象的な人物だ。
リオネルは何でも元侯爵家の嫡男だったが没落してしまい、今は王城でこうして家庭教師や司書などの仕事をやっているそうだ。
元貴族の彼が差し出してくるハンカチなのだから、決して安物ではないだろう。
そんなもので幼子の鼻水を拭いていいものかと迷うが、ここは好意に甘えよう。
ハンカチを受け取り、ラファエルに鼻をちんさせた。
「ラファエル、泣き止んだか?」
「うん……っ」
「よしよし、偉いぞ」
ラファエルの頭をがしがしと撫でて褒めた。
するとラファエルはちょっと誇らしげな顔つきになるのだ。
なんて可愛らしい弟だろう。
こんな可愛い弟を主人公などに渡してなるものか、とオレは決意を新たにした。
主人公が王城に来るまでのタイムリミットはあと18年だ。
本当なら御子は生まれたらすぐに王城に来ることになっている。
だが主人公の両親は、生まれた赤ん坊の額に御子の証である聖痕があるのを見て、あろうことか赤ん坊を隠して育てたのだ。おかげで主人公の両親が事故死して飢えた主人公が山を下りてくるまで、主人公が発見されることはなかった。
だから御子が王城入りするのがこれから18年も遅れることになる。
この時間はオレにとっては幸運だ。
それまでの間、オレは王城で地盤をしっかり固めておかなければ。
計画は立てておいてある。
それは――――他の奴らをくっつけさせてカップルにさせることだ。
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