第7話 彼はルイ。この城の王子様だよ。

 他の奴と他の奴を能動的にくっつけさせる。

 それがラファエルを絶対に他の男にやらない為の必勝の方策だ。


 生前の記憶を駆使し、オレが死ぬ可能性が一番低い組合せはもう編み出してある。18年後になって主人公がやってきたらその通りにくっつけさせるだけ。

 後はそれまでの準備を積み重ねておけばいい。


 その為の準備とは――――各攻略対象と仲良くなることだ!


 だって仲人をするにも元の悪徳貴族の評判のままじゃあ、ままならないからな。

 下手に無理やりやればゲームには無かった新手のデッドエンドを迎えることになりかねない。

 スムーズに彼らをくっつける為には、まずはオレが彼らと仲良くならねばならない。


「マルセル、それがラファエル?」

 

 ということでオレはさっそく行動を開始し、一人目に会ったのだ。

 金髪碧眼の煌びやかな服装に身を包んだ小さな子供。

 そう、オレが前世の記憶を取り戻した時に一番最初に目にした、この城の王子様だ。


「にいちゃま、だあれ?」


 オレの背中に隠れたラファエルがオレに尋ねる。


「彼はルイ。この城の王子様だよ」

「おうじしゃま……」


 ルイ・ラ・フォンテーヌ。

 それが王子様の名前だ。


 ラファエルがおずおずと顔を出してルイの顔を眺める。

 でもすぐに引っ込んでしまった。

 ラファエルは人見知りが激しいようだ。


 ゲーム中では、マルセルがグレ始めた辺りからルイとも疎遠になってしまう。

 だが今回はそうしてはいけない。

 彼にいい人を紹介してあげられるくらいに仲良くならなくては。


「ルイ、今日は三人で遊ぼう!」


 なので彼と遊ぶことにした。

 子供同士なんだから遊んでりゃ仲良くなれるだろ。


 ちなみにラファエルを連れてきたのは、オレから離れたがらないからだ。

 ルイとラファエルがくっつくルートは無かったし、三人で遊んだところで弊害はないだろう。


 少し離れたところでルイの乳母がオレ達を見守ってにこにことしている。


「じゃあ、まものとけんしごっこやろう!」


 王子とはいえまだ5歳。

 ルイの無邪気さはごく普通の子供と変わらない。

 オレたちはすぐに城の庭を駆け回り出したのだった。



「うっ、また負けたー!」

「やったー!」


 ルイに身体をタッチされ、芝生の上にごろんと倒れる。

 ルイは足が速かった。10回やって10回とも負けた。

 オレですら逃げ切れないのにまだ3歳のラファエルが逃げ切れるはずもなく、ラファエルはとっくのとうに捕まって隅っこで足を抱えている。


「にいちゃま、つまんない……」


 ラファエルが唇を尖らせてぶーたれている。

 まあ無理もない、負けてばかりだし。

 それにしても三歳児なりに顔をくしゃくしゃにして渋面を作るラファエルも可愛い。


「ラファエルがああ言ってるし、今度はトランプで遊ぼうよ」


 とルイに言った。

 ラファエルが可哀想だからな。

 決してオレも五歳児に負けまくって悔しいからとかじゃないぞ。


「マルセル……ラファエルがきてからやさしくなったね」


 ルイが目を丸くして呟く。

 やっぱり周囲にはラファエルのおかげで改心したように見えるらしかった。


「いまのマルセルとなら一緒にあそぶのも楽しいや」


 ルイがにっこりと笑って言った。

 待った、それって今までは実は楽しくなかったってことか。

 ちょっと傷つくぞオイ。



「かったー! にいちゃま、ラファエルのかちー!」


 この後は前世で言うところのババ抜きのような遊びをし、ラファエルも機嫌を取り戻すことが出来たのだった。

 実はわざとラファエルが勝つように手を抜いたのは秘密だ。


 ルイを見ると、ぱちんと片目をつぶってウィンクしてきた。

 ……どうやらルイも手加減してくれてたらしい。器用な五歳児だ。


 ルイにちょっとだけ感謝したのだった。

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