第8話 そいねする。

 まだ3歳のラファエルは時々オレが思ってもみないような突拍子もないことを言ったりする。それが子供の良いところなのかもしれないが、少しは手加減してくれないと心臓がもたない。


 ある夜、ラファエルがぬいぐるみのように枕を抱えてオレのベッドに上がってきた。


「どうしたんだラファエル、枕を持ってきて」


 オレ達の部屋にはもちろんベッドが二つある。

 子供用の可愛らしいサイズのものだ。

 ところが彼はこう言うのだ。


「そいねする」


 ラファエルはオレを見上げて、自慢げな笑みと共にふんと鼻を鳴らす。

 まるでこんな難しい言葉知ってて偉いでしょと言わんばかりだ。

 添い寝? 今、添い寝と言ったか?


「どうして添い寝したいんだラファエル?」

「すきなひと同士はベッドでいっしょにねるんでしょ?」


 ラファエルは純粋無垢な瞳でオレを見つめて言った。


「お前にそんなことを教えたのはどこのどいつだ? 兄様に教えてみなさい、うん?」


 彼の肩に手を置き、顔を覗き込む。

 迫力があり過ぎたらしく、ラファエルはビクリと身体を竦ませる。


「そいねはしちゃいけないの……?」


 彼はすっかり涙で瞳を潤ませていた。

 まずい、このことがきっかけで彼に嫌われたりしたらデッドエンドまっしぐらだ。

 ゲームの中のマルセルだって彼を最初にぶったことがきっかけでギクシャクするようになったんだ。一度嫌われたらもうゲームオーバー、くらいに大袈裟に考えなければ。


「も、もちろん大丈夫だともラファエル。兄様だってラファエルのことが大好きだ。一緒に寝よう」


 彼の小っちゃな身体をハグして、背中を撫でて宥めた。


「ラファエルもにいちゃまのこと、だいすき!」


 ラファエルも小さい手で力いっぱい抱き締め返す。

 まあ、たまにはこんなのもいいだろう。

 何よりラファエルに好かれている実感を直に感じられるのが嬉しかった。

 ラファエルの身体はとても温かくて、その体温に安らいだ気持ちになる。


 もうバッドエンドになるからどうこうだけではなく、ラファエルはオレの大事な弟となっていた。

 自分が死なないようにするだけでなく、彼を幸せにしてあげなければ。

 オレはそう思うようになっていたのだった。


 ラファエルと自分の身体にシーツを被せ、暖かく包み込む。

 ラファエルは目を閉じるとすぐに寝息を立て始めた。

 今日もいっぱい遊んで疲れたのだろう。


「おやすみ、ラファエル」


 ラファエルの可愛い寝顔を眺めている内に、オレも睡魔に誘われたのだった。

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