第32話 蒼い目……綺麗だね
その子供である御子を寿命が尽きる時まで幸福でいられるようにもてなせば、その次の御子が生まれる年まで魔のものや災害といったものからこの国を守ってくれると伝えられている。
実際、この国は魔物は少ないし戦争も長いこと起きていない。
非情に豊かで平和な国だ。
だからこそ御子は王城に招かれて大事にされる。
それが例え礼儀も常識も何もない平民であったとしてもだ。
「ロビン様、こちらがこの城の王子様。ルイです」
ロビンを無事王城まで送り届けて数日後、オレは首尾よく彼にルイを紹介することが出来ていた。
「お目にかかれまして光栄です、御子様」
ルイはにこやかに微笑みながら握手の為に手を差し出す。
「わあ、王子様ってとっても綺麗な人なんだね、よろしく!」
ところがロビンは握手を理解していないのか、その手をすり抜けてルイの身体を直接抱き締めたのだった。よし、計画通り――――。
「……申し訳ありませんが、離れてくれませんか」
ルイが硬い声と共にロビンを引き剥がす。
「他人に触れられるのが嫌いなもので」
ルイは微笑みを浮かべたままだったが、何だか彼の笑顔が恐ろしかった。
嘘だろ!? あのルイが他人にこんな冷たい反応をするなんて!?
それもゲームの中では主人公であるロビンに対してこの返しは完全に予想外だった。
クソ、何故だ……何故やること為すことすべて裏目に出るんだ?
ギリシャ悲劇のオイディプス王のように、運命に逆らおうとすればするほどむしろ運命の通りになろうとしているとでも言うのか?
「あ、ごめんなさい……」
常識のないロビンも流石にルイが怒っているのは理解できたのか謝った。
どうする、ここからどうやって彼らをカップルにさせればいい?
二番手にはなるが、ゲームの通り主人公に偶然ルイの病を知ってもらうか?
それぐらいしか思いつかない……。
「次から気を付けて下さればそれで大丈夫ですよ」
「分かった、本当にごめんね」
「ところで御子様は何でも文字を習得したいのだとか?」
「うん、図書室の本のお話を読みたくて」
「へえ、御子様は物語が好きなのですか? 素敵なことですね」
悩み込むオレをよそに、二人は意外に和やかに会話を続けていた。
あれ、オレ何もしない方がいいんじゃないか……?
もっと全体的に策を見直すべきかもしれない。工夫が必要なんだ。
何もないところに恋を生まれさせるにはもっと繊細さがなければ……。
* * *
ロビンに身体を抱き締められた途端、熱いものが身体に流れ込んで来るのを感じた。豊潤な魔力だ。
御子が御子であると証明するものは何も額の徴だけではないことを身をもって知ったのだった。
ロビン……彼の魔力に触れたのはほんの一瞬だったのに、それは暖かく心地が良かった。思わず、その先を望んでしまいそうになるほどに。
マルセルにしか触れられたくない、そう思っていた筈なのに。
長年の想いよりも圧倒的なまでの魔力量に簡単に屈してしまいそうなこの身体が恨めしかった。
「蒼い目……綺麗だね」
別れ際、無邪気に僕の瞳を覗き込む御子が憎らしかった。
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