第10話 にいちゃまとけーこしたい!
「あの子がそんなことを……」
「はい。若輩者の私で力になれるのなら、是非ともマルセルくんに指導を付けてあげたいのです」
「そうか。本当に変わったな、あの子は」
「どういうことですか?」
「少し前までのあの子はな、それは手の付けられないやんちゃ坊主だったんだ」
「え、でも私が見たマルセルくんはとても礼儀の正しい子でしたよ。そりゃ師匠になってくれという頼みは急でしたが、とてもそんなようには……」
「ああ、あの子は急に聡い子になったんだ。まるで人が変わったかのようだ」
「そうなんですか……」
「あの子には可哀想な仕打ちをした。あの子は生まれつき魔力が無いんだ」
「……っ!」
「あの子は家督を継げない。だから養子をもらってその子に継がせることにした」
「そのことをマルセルくんは……」
「弟の話をした途端、敏感に悟って泣き出したよ。それでも今は立派にお兄ちゃんとして弟の世話をしてくれている。本当は不満だらけだろうにな」
「……」
「そんなあの子が自分から何かをやりたいと言い出したんだ。むしろ私の方から頭を擦り付けてでも頼みたいくらいだ」
「ご安心下さい……! 私が責任を持ってマルセルくんを指導いたします!」
「ありがとう、ありがとう……!」
* * *
さっきお父様から話があって、ジェラルドから剣術を教えてもらえることになった。やったー!
「やった! やった!」
ラファエルも何のことか理解してないながらも、オレと一緒にはしゃいでくれている。ラファエルと手を繋いでどたどたと適当なダンスを踊った。
これから週に一度、ジェラルドが王城に来てオレに稽古をつけてくれるそうだ。
5歳にしてもう学ばされている国語と算数と礼儀作法の勉強もあるが、少なくとも算数に関しては前世の記憶があるオレには余裕なので、さほど負担ではない。勉強と剣術の両立くらい問題ないはずだ。
強いて言えば週一ではなくもっとジェラルドに会って親密になっておきたいが、身体が小さいうちは無理をしてはいけないからと言われた。
仕方ない、主人公が王城に来るまで18年もあるのだ。
これからゆっくりと篭絡していけばいいだろう。
「ラファエルも、にいちゃまとけーこしたい!」
「よしよし、もうちょっと大きくなったらやろうな」
にこにこと答えた後でハッと気づく。
いやいや、一緒に稽古したらラファエルをショタコンのジェラルドに会わせることになる。それは駄目だ!
ジェラルドはいい奴っぽそうだが、それはそれとして弟に手を出させる訳にはいかない。
今の一言をラファエルが都合よく忘れてくれることをオレは祈ったのだった。
「けーこ! けーこ!」
まあ幸いにもラファエルはまだ3歳。
この時期の記憶力なんて大したことないだろう……。
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