第4話 ほら、お前の弟ラファエルだよ。

「ほら、お前の弟ラファエルだよ」


 やがて両親が例の義理の弟を連れて来て、オレに引き合わせた。


「……」


 真っ黒な髪に真っ黒な瞳、そして真っ白な肌。

 何もかもがオレとは真反対の弟がオレをおずおずと見上げた。

 ラファエル・ディノワール。彼こそは第一の死の刺客なのだ。


 ラファエルは至極厄介な相手だ。

 何が厄介かというと、主人公とくっついてその結果マルセルが死ぬルートがあるのは勿論、主人公が他の奴を攻略してもラファエルは他の男と結ばれそのついでとばかりに邪魔なマルセルは死ぬ。

 極め付きは主人公がフラグを回収し切れずバッドエンドを迎えても、ラファエルは自分を長年虐げてきたマルセルを殺し、自分も投身自殺するのだ。

 つまりはハッピーエンドも駄目、バッドエンドも駄目の駄目駄目尽くしがこのラファエルなのだ。


 大丈夫、対抗策は考えてきた。

 まず第一に、ラファエルを虐めないこと。

 そもそも宮廷魔術師の地位に興味ないオレはラファエルを虐めたいなんて思ってないのだが、特にラファエルの機嫌を損ねないように注意する。これでバッドエンド時に殺されないようにする。

 第二に、ラファエルを誰ともくっつけさせない。もしかすれば虐めないようするだけで充分かもしれないが、念には念をだ。少なくとも男にはラファエルはやらない。これでハッピーエンド時の突然の死を防ぐ。

 これでラファエル関連のオレの死は防げる筈……だ。


 ラファエルはまだ3歳のほんの小さな子供に過ぎないが、コイツがオレの死の化身なのだと思うと震えてくる。

 だがやるしかないのだ。これからオレの一生はこいつのご機嫌取りの為に費やされると言っても過言ではない。


 ゲーム中ではマルセルとラファエルのファーストコンタクトで、マルセルは癇癪を起こしてラファエルの頭を叩くのだ。それからラファエルはマルセルの顔色を窺うようになり、マルセルはそれが癪でますますラファエルを虐める。そんな悪循環に陥る。


 オレはそんな間違いは繰り返さない。


「ラファエル」


 ぱっと手を真上に上げる。

 ラファエルが反射的にビクリと竦んで身を縮こませる。

 オレは上げた手をラファエルの頭に下ろし……そして左右に動かしてその頭を撫でてやった。


「いい子いい子」


 子供にはこうすればいいんだろう。

 生前一人っ子で独身だったオレにも分かる。


「……?」


 頭を撫でられたラファエルは不思議そうにオレを見上げた。

 その大きな黒い瞳に見つめられた途端、ずきゅんと何かがオレの心臓を射抜いた。


「どうやら仲良くできそうで良かったわ」

「ああ、そうだな」


 両親がほっと胸を撫で下ろしている中、オレの心臓はドキドキと跳ねていたのだった。オレの弟……可愛くないか?

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