第3話 このままだと、オレは死ぬ……!?

「それにしても長男なのに跡継ぎになれないとはな」


 あの後すぐに父に捕まり、宥められて部屋に連れ戻された。

 そして一人になった後しみじみと呟いたのだった。


 魔力が無いから仕方がないとはいえ、養子が跡継ぎなんて。

 オレがマルセルじゃなかったらグレているところだ。

 そういうのよくある話だろう、居場所を奪われたのを機にグレるとか。

 オレが前世で死ぬ直前にプレイしていたゲームにもそういうキャラが……


 …………待てよ。


 待てよ待てよ待てよ。

 まさかそんなことがあるのか?


 オレはガバッとベッドから身体を起こす。

 オレはある可能性に思い至っていた。


 前世で死ぬ直前、オレはあるゲームをプレイしていた。

 その名も『平民御子の王城生活』。

 その中に出てくるあるキャラクターの過去が、今のオレの状況と酷似しているのだ。


 宮廷魔術師の長男で。

 なのに魔力が無くて。

 義理の弟に跡継ぎの座を奪われ。

 その後グレて悪徳貴族の名を欲しいままにした。

 その名もマルセル・ディノワールという――――悪役キャラ。


「オレはゲームの中のキャラに転生したのか!?」


 まさかそんな馬鹿な。

 だって、だってよりにもよってBLの中に転生しなくても良かろうに!


 オレが死ぬ直前にプレイしていた『平民御子の王城生活』こと略称『みこおう』はBLゲームだった。

 BLゲーだと気が付いた時には既に中盤までプレイしてしまっていた。

 そこでプレイを止めることもできたが、社畜の時間は貴重だ。

 そこまで時間を投資しておいてクリアを見ずに止めることは勿体なくてできなかった。

 オレは既に『みこおう』に愛着が湧いていたのだ。

 そして一応数周回ぐらいはクリアしたところでオレは通り魔に遭い、死んだのだった。


 オレは手鏡を手に取り、自分の顔を再び確認してみる。

 真っ黒の肌に白銀の髪。ここも『みこおう』のマルセルと一緒だ。

 そしてこのツリ目。成長すればいかにもあのマルセルの悪役顔になりそうだ。


 間違いない。オレは『みこおう』のマルセルだ。


 そう考えると色々と合点がいく。

 聞き覚えのあった御宿みやどりの樹という単語。

 『みこおう』のオープニングで出てきた言葉だ。


 王城の中庭には大樹が植わっている。

 それは御宿みやどりの樹と呼ばれていて、神様の魂が宿っているとされている。

 聞けばこの王城は御宿みやどりの木を護るように建てられたのだという。


 御宿みやどりの木は百年に一度、まるで硝子細工のような果実をつける。

 それは太陽の光を受けるとまるで宝石のように光り輝く。

 そしてその果実が完全に熟れると……弾けるのだ。

 弾けた果実の中に宿っていた神様の子供の魂が飛び出し、この国の何処かに飛んでいく。そしてまだお腹の中にいる赤ちゃんに宿って、人間の子として神様の子供がこの世に生まれるという。


 その百年に一度の世にも珍しい光景を目にした瞬間にオレは前世の記憶を取り戻したという訳だ。


「にしても、BLゲーに転生するなんて……」


 オレは異性愛者だ。

 男から迫られてもどうすることもできない。

 もしかしたらオレは地獄に転生させられたのか?


 いやいや、落ち着けオレ。

 たくさんの攻略対象に迫っていくのは主人公。

 そしてオレは攻略対象じゃない。ただの当て馬キャラだ。

 オレは主人公には迫られない。だから大丈夫。


 ほっと胸を撫で下ろし……


「良くねえええええええっ!!!!!」


 問題点に気づき、オレは吠えたのだった。


 当て馬キャラとは何か。

 攻略対象と過去に関係があったことを仄めかしたり、攻略対象を横取りしようとして嫉妬を煽るのが役割のキャラだ。中には今まさにマルセルが攻略対象を襲おうとしているその瞬間に主人公が助けに入り、攻略対象が主人公に惚れるなんていう場面もあった。


 ただの当て馬キャラとして作られてるだけあって、マルセルは作中では何の同情の余地もないただの悪漢として描かれている。多分シナリオを書いた人すらマルセルに対して何の愛情も持ってない。

 貴族なのに肌が黒いのも、この世界では黒い肌が貴ばれてるからという設定があるとかではない。そんな設定があった覚えはない。黒い方が悪役っぽいからとかいう薄っぺらい理由に決まっている。


 そしてそんなマルセルが作中でどんな最後を迎えるかと言うと……死だ。

 先述した主人公が攻略対象を助け出すシーンで殺され、攻略対象を虐めすぎて反逆されて殺され、主人公がハッピーエンドを迎えるついでに何気なく死に、ルートによっては特に意味もなく死ぬ。

 殺されずに追放刑で済まされたら僥倖とすら言える生存率の低さだ。マルセルの扱い、雑過ぎ。


 という事はつまり……


「このままだと、オレは死ぬ……!?」

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