第42話 ジェラルド、これからは
「クリス、ああ……ここにいたか」
「エルヴェシウス様……?」
中庭で
その拍子に彼の青い前髪が揺れた。
「ジェラルドと呼んでくれないか」
「それは、この場所ではちょっと……」
クリスは不安そうにきょろきょろと周りを見回す。
「大丈夫だ、誰もいない。聞かれないさ」
「……じゃあ、ジェラルド様と」
呼び捨てにはしてもらえなかったが、名前で呼ぶことを了承してもらえた。
「ジェラルド様、は今日も何か持ってきたのか?」
今日は彼の言葉が何だかたどたどしい。
屋外だから緊張しているのだろうか。そんな風に緊張されると、何だか彼とイケないことをしている気分になってしまう。
「ああ、コレをな」
彼に小箱を差し出す。
「コレは……チョコレートか」
箱を開けてその中身にクリスが瞳を輝かせる。
「もしかしたら、好きかと思って」
その場で食べてくれるかと思ったが、クリスはそのまま箱を閉じると私の顔を見つめた。
「前々からジェラルド様に聞きたいことがあったんだが、聞いても?」
「ああ」
聞きたいこととは何だろう。
どんな質問にせよ真剣に答えるつもりで、彼を真っ直ぐ見つめ返す。
「ジェラルド様は、なんでこんなにオレによくしてくれるんだ?」
「それは……」
考えてみる。
私は何故こんなにも彼に夢中になってしまってるのだろう。
分からない。彼が魅力的だから、としか言えない。
どうしようもなく彼の素の表情に惹かれてしまうのだ。
それが何よりも光り輝いて見えたから。
「……君のことが好きだから、かな」
考えたことを端的に一言で言い表した。
途端にクリスの頬が紅潮する。
「それは、どういう意味で?」
その一言に、彼を勘違いさせてしまったことを悟った。
私は別に一回り以上も年下の相手に恋慕している訳では……いや。
本当にそうか? 私は本当にクリスに懸想してないのか?
この感情は、恋ではないのか?
「それは……分からない」
「ふうん……」
クリスが私の瞳を覗き込むようにじっと見つめる。
まるで瞳の中から私の思考が見えるとでも思っているかのようだった。
その視線に、思わず緊張してしまう。
「……分かった」
クリスがぽつりと呟く。
「何が分かったんだ?」
「納得したってことだ。あんたがなんでオレに拘るのか」
そんなこと私自身も分かってないのに。
でも、クリスは私を見つめてくすりと柔らかい微笑みを浮かべるのだった。
「ジェラルド、これからは菓子を貢がなくてもいいぞ」
「え?」
名前を呼び捨てにしてもらえたことと、彼に言われた言葉の内容とで頭がパンクして目を丸くする。
「土産が無くても会ってやるってことだよ」
「な……っ」
「不満でもあるのか?」
クリスがギロリと私を睨む。
でもその視線は照れ隠しなのだと、何となく分かった。
だから私も破顔して綻んだのだった。
「ありがとう、嬉しいよクリス」
「でもたまには持ってきてもいいぞ」
ふん、と鼻を鳴らしながら彼は小箱を開けて、チョコを一つ口に放り込む。
そしてその味の豊潤さに驚いたのか、目を見開いて頬を緩めるのだった。
彼のその可愛らしい表情を見て気づいたのだった。
私は彼に恋しているのだと。
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