第41話 オレは一体何を

「ロビン、王城での生活には慣れたか?」


 一休みしてタオルで汗を拭っているロビンに尋ねた。


 ロビンと二人きりで会話をする為に、彼を剣術の稽古に誘ったのだ。

 何にでも好奇心旺盛の御子は、思った通りオレと二人きりの稽古に食いついたのだった。


「ああ。みんなボクに親切にしてくれて、優しい人ばかりで感謝してるよ」


 ロビンはにこやかな微笑みをオレに向ける。


「良かったな。特にルイがよく構ってくれてるんだろ?」

「ああ……でも、その……」


 ルイの名前を出した途端、彼の顔色が明らかに曇った。

 分かりやすい奴だな。何かあったのだろう。


「その、君はルイの幼馴染なんだろう? 彼のことについて教えてくれないか」


 ロビンの方からそう切り出してきた。

 これは好都合だ。


「ふむ、しかしな……」


 もったいぶって迷う素振りを見せる。

 簡単に教えたと思われるのはあまり良くないからな。


「お願いだ、彼のことを知りたいんだ」

「……いいだろう」


 迷った末に観念したように振る舞う。


「ありがとう!」


 ロビンは本当に感謝しているような表情を浮かべた。

 どうやらよほど真剣にルイのことを考えているらしい。


 訓練場の隅のベンチに二人並んで座る。

 周りには誰もいない。盗み聞きされる心配はないだろう。


「それで、なんでまたルイのことを知りたいんだ?」

「ルイはとっても綺麗で優しい人だ。でも……」


 ロビンはゆっくりと語り出した。


「ルイは、何かに囚われてるみたいなんだ。自分を傷つけようとしている。そんな風にボクには見える」

「……」


 ゲームの中のルイルートの内容を思い出してみる。

 ルイが自分を傷つけようとしている。

 そんな内容のイベントがあった記憶はない。

 既にゲームの筋から外れていっているようだ。


 それともロビンは他のルートに進んでいるのか……?

 そんな疑いに不安が過る。

 だがそうだとしても、ここから軌道修正させるのだ。それしかない。


「それとオレが知っていることとが関係あるかは分からないが、教えてやれることはある」


「聞かせてほしい」


「ただし、この場でオレが教えたことは決して口外するなよ。場合によってはルイにとって不名誉なことかもしれないから」


 ロビンが真剣な顔でこくんと頷く。

 この様子なら信用しても良さそうだ。


「ルイはな、魔力欠乏症なんだ。魔力欠乏症って知ってるか?」


 ロビンがふるふると首を横に振る。

 オレは彼に病の説明をした。


「ルイがそんな病気だったなんて……」

「このことはオレ以外には多分ルイの家族しか知らないことだ」

「うん。聞いたことは誰にも言わない」


 ロビンはぎゅっと眉根に皺を寄せて辛そうな表情をしている。

 ルイの痛みを感じようとしているのだろうか。


「参考になりそうだったか?」

「うん、ありがとう。助かったよ」


 最後にもう一押し、そんな彼に言葉をかけておくことにする。


「もしもルイが君に弱い一面を見せているなら、助けてやってくれないか。ルイは滅多に他人を頼らないやつだから」


「……うん!」


 ロビンの瞳には希望が宿っていた。

 彼なりにルイとの関係に活路が見出せたようだ。

 その表情にもやもやとしたものが胸の内に湧いてくる。


「ルイについて一つの事実を知ったくらいで、彼の一側面を理解したつもりにでもなっているのか?」


 訓練場から去るロビンの背中に、気が付いたらそう問いかけていた。

 幸いにもロビンの耳には届かなかったようで、彼の姿はそのまま消えた。


「はあ……何を言ってるんだオレは」


 ロビンは主人公なのだ。

 僅かな接触だけでルイの心を開かせることが出来るのは必然だ。

 彼らが結ばれればルイも幸せになれるだろう。


 オレは一体何を苛ついているんだ?

 苛つく理由などない筈なのに……ゲームの中のマルセルがロビンを妬んだ理由が分かってしまう気がした。

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