第53話 がんばれフェルナン

「お兄様、今の奴は誰?」


 フェルナンが部屋を去るのと入れ替わりに、ラファエルがやって来た。


「いや何、少し頼まれごとをしてね」

「ふぅん……」


 ラファエルは椅子にかけるのではなく、ベッドの縁に腰掛ける。


「ラファエルは今日の修練はもう終わったのか?」

「ああ」


 オレもラファエルの隣に座ると、彼の腰に腕を回し抱き寄せる。

 それだけで彼の頬が微かに赤く染まるのが見える。

 これより恥ずかしいことなど、もう沢山シただろうに。

 可愛らしいことだ。


「生涯鍛錬し続けなきゃいけないなんて魔術師は大変だな」

「それは騎士だって同じだろ?」


 彼の黒髪を掻き分け、ラファエルの白いうなじに口付けを落とす。

 白皙の肌が赤らみ、体温が熱くなっていく。


「騎士なんざこの国ではお飾りだよ」


 答えながら調子に乗って彼の内腿に手を滑らせると、ラファエルに手を払われてしまった。

 今はダメらしい。


「この国の騎士で一番強いお兄様がそんなことを言っては駄目だ」

「その『一番強い』ってのも、この国が平和だからだ」


 大人しく手を引くと、今度はラファエルがオレに体重を預けてくる。


「戦争をしている他国の騎士がどうやって戦ってるか知ってるか?」

「ううん」


 ラファエルの頭をそっと撫でると、彼は気持ちよさそうに目を閉じるのだった。


「剣術だけじゃない。魔道具デバイスやスクロールを必要に応じて発動させて、人工魔術の力で敵を焼き払うんだ。でもそれらを起動させる為の必要最低限の魔力すらないオレにはそんなこと出来ない」


「うん……」


「一見オレがこの国で一番強い騎士のように見えるのは、手合わせなんかでわざわざ魔道具デバイスやスクロールなんか使わないからさ。実戦になれば剣術だけのオレよりも、他の奴らの方が強い」


 ラファエルが薄く目を開けて、オレを見つめる。


「剣術で一番強いのだって凄いのに……」


 小さく呟くと、彼はオレの手をぎゅっと握り締めたのだった。


 * * *


 まずは普段のお前とリオネルさんの様子を見せてくれ。


 マルセル様にそう言われてオレは図書室に来ていた。

 リオネルさんは普段王城の図書室で司書をやっているからだ。


 何のアドバイスも得られず、マルセル様に相談する前と何一つ変わらない状態でここに来てしまった。

 これではまたリオネルさんの柔らかい微笑みでやさーしくフラれるだけだ……!


 そこまで考えてハッとする。

 オレはこれ以上傷つかない為にマルセル様に相談したのか?

 いや、違う。この恋を成就させる為だ。

 恋の成就の為に情報が必要だというなら、頑張るしかないんだ……!


 いた、リオネルさんだ。

 オレは彼に向かって一歩を踏み出したのだった――――。

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