第65話 思い通りにならないのが愛しい……のか?
「マルセル様、貴方のおかげで無事リオネルさんと結ばれました!」
数日後、フェルナンが嬉しそうに報告してきた。
「そうか、それは良かった」
彼の報告にこちらも顔が綻ぶ。
どうやらフェルナンは特に問題なく、リオネルさんと上手くいっているようだった。
これなら追加で調査した内容はいらなかったようだ。
「マルセル様、どうかしましたか?」
「いや、なんでもないさ」
リオネルさんについて新たに調査した内容は胸にしまっておくことにした。
実を言うとリオネルさんがペンネームである本を書いていたことを突き止めたのだが……別にオレが口にする必要もあるまい。そのことを話すかどうかは、リオネルさんが決めればいいのだ。
「それにしてもトントン拍子に上手くいったんだな。その分ならオレの助言が無くても仲良くなるのは時間の問題だったんじゃないか?」
「いいえ、そんなことありません。リオネルさんと結ばれたのは、マルセル様のおかげで自分を見つめ直すことができたからです」
「ふむ、そうか」
結局ほとんど彼の助けになることはできなかった、とオレは思っているのだが彼は違うようだ。
まあ、感謝されるのは面映ゆいが嫌ではない。
「これが約束の報酬です」
フェルナンが懐から革袋を取り出し、テーブルの上に置く。
どさりと貨幣の重い音がした。
「……なんか多くないか?」
「いえいえ、そんなことありません!」
フェルナンはにこにことしている。
細かい通貨が多いだけかもしれないな。
あまり気にせずその革袋を受け取った。
――――それが致命的なミスだったと気づいたのは後になってのことだった。
*
「マルセル様。我が愛しの君との仲を取り持っていただきたい」
「……何故オレに頼む?」
「貴方様が金さえ払えば恋を成就させてくれると聞いたもので」
ど う し て こ う な っ た ?
オレは重々しく溜息を漏らす。
いや、原因は分かっている。
フェルナンから礼に現金を受け取ったことが何処かから漏れたようだ。
そこから噂に尾鰭がつきまくって、オレはすっかり『金さえ払えば縁結びをしてくれる男』だということになってしまったらしい。
今ではひっきりなしに依頼が来る。
その度にオレは懇切丁寧に噂を否定して、依頼を断っている。
だが、それでも依頼の一割くらいはどうしても断り切れずに受けてしまっている。
「一応聞くが、意中の人はどんな人間なんだ?」
「それが何処かの貴族に雇われて闇の稼業をしているらしく、本名すら分からず……」
また厄介な話を持ち込まれたと頭を抱える。
「……詳しく話を聞こう」
結局また依頼を引き受けてしまい、噂がまた広まることとなってしまうのだった。
こうして、オレの異世界生活はある意味では不条理に満ちたものとなった。
不条理に殺される未来よりはずっとマシだが……はあ。
後でラファエルに愚痴を聞いてもらうとしよう……。
BLゲーの当て馬キャラの悪役貴族に転生したので、他の奴らをくっつけてこの場は凌ぎます 野良猫のらん @noranekonoran
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