第22話 マルセル様に仕えたいです。

 さて、主人公とルイをくっつけるということは、つまり残るジェラルドはクリスとくっつけるということになる。

 だがまだジェラルドとクリスの二人を接触させるつもりはない。


 だってクリスはまだ7歳だぞ7歳!

 ショタコン野郎に近づけさせることなど出来ん!


 じゃなかった、ジェラルドはいま父親が死んだばかりで傷心中なんだ。

 ジェラルドがいい奴だとは分かっているが、彼が落ち着いてからにした方がいいだろう。

 本人も今の自分は何をしでかすか分からない危険な男だみたいなこと言ってた気がするし。


 ということで今はまだオレとクリスが仲良くなる段階にある。


「おおー、凄いなあ」


 カップに琥珀色の液体が注がれていく様に、オレは感嘆の声を上げた。


「ま、まだ全然、上手くないけれど……」


 オレに紅茶を淹れてくれたクリスは、頬を染めて照れたのだった。


 何でもオレとのお茶会の為にクリスは紅茶の淹れ方を習ってきてくれたらしい。

 なんていい子なんだろう。


「いやいや、格好良かったぞ。もう立派な執事さんじゃないか」


 オレが褒めると、彼は真っ赤になってぶんぶんと首を横に振った。

 恥ずかしがっちゃって、可愛いなあ。

 その様子を微笑ましく眺めながら、オレはカップを口に運んだ。


「ん……美味しいな」


 クリスがオレの為に淹れてくれた紅茶は心なしかいつもより美味しく感じた。


「クリス、紅茶を淹れる才能があるんじゃないか?」

「さ、才能っ!? さっきからマルセル様、大袈裟すぎです!」

「でも実際美味しいぞ。自分でも飲んでみろ」


 クリスがポットを下ろして、自分のカップを手に取る。

 そしてカップを傾けて紅茶を口にした。


「……美味しい」


 クリスは自分の紅茶の味に頬を緩めてはにかんだのだった。

 彼のその表情を見られただけでも、彼とお茶会をした甲斐があったものだ。


「オレ、ちゃんとした執事に近づいてきてるんですね」

「ああ、もちろんだとも」


 今日はお茶菓子にがっついたりもしない。

 彼が普段からお腹いっぱいご飯を食べられているようで良かった。


「オレがこうして成長できているのは、マルセル様のおかげです」


 クリスが真っ直ぐにオレを見上げる。


「そんな。クリス自身の努力の賜物だよ」

「……えへへ」


 にやり、と。

 彼の素が垣間見える照れ笑いを見せて彼は喜んだ。


 そして、


「オレ、立派な執事になれたらマルセル様に仕えたいです」


 とまで言ってくれたのだった。彼の笑顔が眩しかった。

 クリスとジェラルドを将来くっつけさせなければいけないことを、オレは内心少しだけ惜しんだのだった。


 ちょうどその時、コンコンとドアをノックする音が響いた。


「マルセル様、勉強のお時間です」


 ドアを開いて現れたのは家庭教師のリオネルだった。

 ラファエルの鼻水を拭く為に躊躇わずハンカチを差し出してくれたあのリオネルだ。


「おっと、もうそんな時間か!」


 楽しい時が過ぎ去るのは早い。


「あ、片付けはオレがやっておきます!」


 ありがたいことにクリスが片付けを申し出てくれた。

 それに甘えることにする。


「ごめん、頼んだ」

「それではマルセル様、お勉強がんばってください!」


 紅茶セットをお盆の上に乗せてクリスは部屋を去った。


「ふふ、小っちゃな執事見習いくんとお茶会をなされていたのですねマルセル様は」


 リオネルさんはいつものようににこにこと微笑んでいる。

 にこやかな人で、彼に教えられるととてもリラックスして勉強に励むことが出来る。


「羨ましいですねえ」


 そんな彼が少し寂しそうな表情を浮かべてぽつりと呟く。

 だから、オレは思わずこう言ってしまっていた。


「じゃあ今度、リオネルさんともお茶会しましょうか?」


 と。

 ぱちぱち、と目を瞬かせるリオネルさん。


「私と……? いいのでしょうか?」

「もちろんです」


 しばらく目を丸くさせていたリオネルさんは、やがてくすりと微笑みを漏らした。


「それは……ええ、楽しみができました」


 今までデッドエンドフラグをへし折ることばかりに注力してきたが、もう少し周りの人に目を向けてみるのもいいかもしれない。

 彼の笑顔を見て少しそう思ったのだった。


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