44 まだまだあるが、とりあえずこれで終わり
それ以降の話だって、まぁ、書こうと思えばなにかと面白い話はある。
親方様なんかに連れられて都会に行ったり、公国からの酔っぱらいが豚後小屋に紛れ込んだり、知らない国の貴族様たちが親方様の屋敷に遊びに来たり、山賊に捕まってゴブリンやオークの子どもたちと追いかけっこしてたり。ドラゴンに食い逃げされたり。
嫌なこともいいこともある。それが人生。
けれど、長々と書いても仕方がない。僕の気力も追いつかないし。
なので一旦ここらへんで切るのが切りがいいだろうと僕は思う。なのでここでこのお話は一旦おしまい。
文句は聞かないよ。
最後にいくつか後日談だけ書いておく。
例の迷子が遭遇した暴れ馬は、エルフ領上げての捕物騒動で生け捕りにしたらしい。
エルフ領ではそうやって野良馬を捕まえては調教して乗り物に使っているとか。
そういった馬を買うか自分で捕まえて調教するか、もしくは誰かから借りるかして、この界隈の人間は老若男女関係なく大概は馬に乗れるということを豚小屋のおじさん夫妻に聞いた。
「昔から武張った気風ってやつだな。ウェイバー庄の伝統だよ」
とのこと。
暴れ馬の話に戻せば、この馬はこの地域の馬とはかなり違う。
馬のことについてまったく詳しくない僕が見てもそれはなんとなくわかる。
エルフ領見た白馬なんかより一回り二周り大きいし、顔つきや毛並みも全く違うもの。
こんなよくわからない馬の取り扱いに困ったエルフ領は、親方様への献上という形で馬を丸投げし、親方様は部下である豚小屋の管理人のおじさんに世話や調教を任せたという流れ。
「暴れてたってのはこの土地になれてなかったせいなんだろうな。図体がでかい割におとなしくていうことをよく聞くし、人を乗せるのも特に不満を持ってないみたいしでいいウマだよ。ただ、こんな馬このあたりじゃ見たことないんだよなぁ。公国の馬って感じでもないし」
はそんなことを言いながら、僕がいるおかげで負担が減った豚小屋の管理人の仕事をそこそこに、豚小屋の外に繋いでいる馬の世話と調教に精をだしている。
親方様は貴族らしく馬を飼うべきだと言っていた本人の願いがかなった形だが期待してるのはこういうのじゃなくて、もっとしっかりとした血統の馬を複数飼ってレースにでるとか首都の貴族と馬比べ(都会の貴族が見栄を張るたぐいのイベントだとメイドに教えてもらった)したいんだ。そして伯爵様の名前と一緒に調教師の俺も有名に、ということだそうだ。なので本人は3割程度しか満足はしてない。
「もしかしたら、この馬もお前さんと同じように異世界から来たんじゃないか」
まさかね。
僕については引き続き食堂の下働きと豚小屋の世話をしている。
最近食堂の下働きを重ねて信頼を得たのか、仕事のランクが上がったようで、鍋の火の番とかも任されるようになった。
といっても人手不足、まだまだ芋の皮むきだの食堂の掃除がメイン。
最後にエルフの家族の話だが、エルフ領では幹部会議の結果、ドワーフ領と同じように漁師の組合を作ることにしたそうだ。
その結果として、おばさんは無事お役御免。
前から顔なじみの漁師の若者たちをまる一日借り出して、家から家財道具を運び出し、娘夫婦のところに引っ越し孫と娘と楽しくくらしているとのこと。
ちなみにこれがウェイバー庄エルフ漁師組合の初仕事となる。
そしてもともと住んでいた家は組合の避難所と休憩所として貸し出すのだそうだ。
夫との思い出の家だから、廃墟になるより有意義に使ってほしいとのこと。
「この度はありがとうございました。些細なものですが、娘と孫娘とともに作った菓子をお届けします。お礼として受け取っていただければ幸いでございます。」
エルフ領の美丈夫が親方様への伝令のついでにたのまれたといい、上の報告を書かれた手紙と菓子づつみを持って僕のところに来た。
しかしだ。僕は言葉が読めない。ということで朝食の際に都会生まれを鼻にかけるメイドに読んでもらった。
「特になんかやった覚えはないんだけどなぁ」
「まぁ、もらっておけばいいんじゃないか?返すのもなんか変だしよ」
新人はそう言った。
菓子は木箱に詰められたクッキーらしき物の詰め合わせだ。
一枚かじったが、ほんのりと甘い。ミント菓子のような清涼感がある上品な味。
「そうそう。エルフのクッキーなんて高級品ですよ。とても手がだせませんし」
そう言ってメイドは三枚目に手を出している。
確かに手紙を読んでもらった手前、食べていいとは言ったが
「いくらこいつが分けてくれるって言ってるとはいえさ、すこしは節度を持てよ。お前」
このクッキーは結局、こちらに来てお世話になってるメイドや新人、料理長、あと管理人夫婦などにおすそ分けして、残りは夜食として自分の部屋で消費してしまった。
木箱はそのまま小物入れに使っている。
みるからに安っぽい作りの公国の菓子箱(とメイドに聞いた。出稼ぎ商人だという旦那のお土産の空き箱にでも詰めたのだろうか)だが、小奇麗なデザインの焼印がしてありお洒落だ。でもまあ机もない倉庫の二階だからおしゃれもクソもないなぁ。
給料貯めるかして机を買おうか。そうなると椅子もほしいや。
今後どうなるかは私にはわからない。でも、けれど、まぁ、異世界に来てもこういう生活なんだ。今後もそうそう大きくは変わらないとは思っていただきたい。
おしまい
異世界転生したから活躍できるわけじゃないと思うのでそれなりの人生を求めてまずは豚小屋で豚の餌やりから始めます 飛騨牛・牛・牛太郎 @fjjpgtiwi
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