41 行政上の都合

ロバというのは馬や牛とは違う。

何を、と言われそうだが実際そうなのだ。人よりゆっくりとした足並みながら小柄なおばさんを載せてしっかりと不整地を歩いていくからすごいものだ。

「この道は馬だと大きすぎてね。私も若い頃は歩いて通えたんだけど膝を悪くしちゃってさ」

このおばさんは何かと話が好きなようであれこれぺちゃくちゃとしゃべる。まぁどこの国でもおばさんってのは世間話が好きなものだからエルフも例外じゃないって事だろう。


「こういう質問するのは失礼じゃないか、って思うんですが一つだけ聞いていいですか」

「なんであんな所に住んでいるのか、って話でしょう」

よそ者から聞かれるお決まりの質問のようで、こちらが聞く前に話し出した。

「漁の権利の問題でね。人が住んでなきゃ漁の権利がなくなっちゃうのよ」

「へぇ。はぁ。別に膝を悪くしてまでおばさんが漁をやるってわけじゃないんでしょう?なら町か村か、まぁ子供さんところの近くに言った方がいいんじゃないですか。そしたら子供にこんな道通わせる苦労もなくなる。そうなりゃ苦労もしないでしょう」

「私はそうしたいのよ。正直ね。娘も旦那もそういってくれてるから、良かったら明日からでも引っ越すんだけど。そうなるとあの辺の漁の権利が無くなっちゃうから村が困るって幹部連中から止められてるの」

「誰か住んでたらいいんでしょ?村から代わりの人をよこしてもらったらどうです」

「住んでたら、というか管理人として常時泊まり込みでいる人間が必要なの。でもさ、ここいらですんでる田舎者エルフだって嫌がる道の先なのよ?うちの死んだ旦那はみんなが嫌がる漁場の独占をすることを条件に管理人になのりをあげて、ここいらで一番儲けてたから娘たちの結婚祝いに家を立てるくらいだったんだけどね。旦那が死んじゃってからは村の若いのが漁に来るときにタダで貸してるだけなのよ。そこで取れた魚は村の貴重な水産食品ってことはわかるし大事だと思うんだけどね。でもこの森の中に住んで魚食べてる田舎者だってあそこにゃ住みたくないっていうの。嫌な物ね」

「さっきから田舎者呼ばわりしてますけど、もしかして都会の方から来ました?」

「えぇ、私は公国の首都生まれなの。こう見えても一応貴族の血筋なのよ。といっても下っ端の下っ端で、本家はとっくの昔につぶれちゃったから威張れるものでもないんけど」

そういっておばさんは笑った。

「旦那はこの領で生まれてね。みんな嫌がってたあそこでの漁に目をつけて独占する代わりに管理人に名乗りを上げたの。この辺じゃ一番豊富な水場だったからそれはもう儲けてね。私の両親がそれをどっかから聞きつけて、嫁にどうだって私を送り付けたの」

「都会生まれがこんな田舎の森の中に送られる、なんていやなものでしょう」

「最初は全くその通りだったわ。でも蓋をあけてみれば旦那は荒っぽいけど顔が良くて優しかったし、村の人たちもよそ者の私に優しくってね。何より旦那が金を蓄えてたの。そうなりゃ文句なんてないわよ。それで今まで楽しく暮らしてるんだけどね。こうなると嫌な物よ」

「そうですねぇ」

何かないものかね。


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