8話 親方様現る
「衛兵くん」
そんな話をしていたら入り口から誰かを呼びかける声がした。
見ると若い男。衛兵と同年代か、すこし年上といったところだろう。
あのおじさんよりはきれいだが、格好としては似たような格好。土がついた作業着。その上におそらく外行きってことで羽織った外套。
「親方様」
親方様、というのはなにか偉い人に対して呼びかける言葉だとおもう。
ここでの親方様、ってことは
「うちの豚小屋に異世界人が居たって話を聞いてね。どんな具合だい」
「一応の説明はしたところです」
「あなたが、そのウェイバー侯爵様ですか?ご迷惑おかけしますが」
「迷惑なんか掛かってないよ。あぁ私が第13代ウェイバー家当主のマックス・ウェイバーだ。みんなは親方様と呼ぶがね」
「親方様、って響き貴族はというより大工の棟梁ぽいですね」
「そうかな?まぁ貴族らしくないとはよく言われるよ」
そういって入り口で土を払い、僕と衛兵が座っていた机の横に立った。
「椅子をどうぞ」
衛兵はそういって自分が座っていた椅子を差し出し、代わりの椅子を探しに二階に上がっていく。
「うん。君は異世界からきたってことだけど、何か特技みたいなものはあるのかね?」
ウェイバー伯爵は椅子に座って二、三の雑談のあとこう切り出した。ちなみに雑談は、豚小屋の掃除を手伝ってくれたそうだね、から始まりこの辺じゃ厚めに切り分けた豚肉を煮込んで食べることが多いね、パン粉なんかをつけて油であげる?、そういう料理も都会にはあるけど油がもったないからこの辺じゃ食べないよ。僕もあれは好きだけど、油の質が悪いとギトギトしててさ。といった豚の話だった。
「特技ですか?」
そこに二階から椅子をもってきた衛兵も集まり、僕の答えを聞く姿勢になった。
「そうだ。大体異世界、というのもおかしいかな。君の世界から来た人は何かしら特技や能力を持ってることが多いんだ。記憶力が異常にいいや刀剣や武器の扱いに長じていたり、あとは商売や専門の知識を持ってたりね」
「そうなんですか?」
これは衛兵の言葉。彼もよく知らないのだろう。
「なぜかよくわかってないが、当人もこっちにきてから目覚めたり目覚めなかったりするらしい。世界が変わると何かに目覚めるんだろう。とは言われてる。まぁそのおかげでちょっと優遇されることもおおいのさ。君はどうだい」
「そういう特技的な物はありませんね」
私はそう答えた。
「いやまぁ、わかりますよ?どこか遠くからやってきた人がなんかすごい技能持ってるって話でしょう。ですけど、そこまで都合よく人生生きられる人はわざわざどこか遠くから来ずに生まれ育って土地勘や諸々の経験が生かせる場所で活躍すると思うんですよね。ですから私みたいに送られてくる人にそういった期待をしないで欲しいと。なにも知らない人間が活躍できるなら生まれたての赤ん坊のほうがいいでしょ?」
そういったら親方様と衛兵はそろって笑って
「そりゃそうだな」
と一言。
「それにさっき聞きましたが、こっちにきて失敗する人もいるんでしょう?」
「あぁ、既存の職人や商人たちとの軋轢だったり、そもそも商売が下手だったり、女に手を出したり、妙な政治運動に手を出したりインチキ臭い宗教にはまったり。首都じゃそういう噂や話が方々から流れ込んでくるよ。だから他所から来て迷惑を起こす異世界人を嫌う地域や国も多い。この国はアパート大帝がいるおかげで好意的な人が多いけどね」
「アパート大帝、ってさっき聞いた」
「そうです。首都でアパート運営をしてる方で、結構な大金持ちになりましたが慈善活動に精を出していて人気があるんです。なので誰が呼んだかアパート大帝と」
衛兵がそう教えてくれた。衛兵も知ってるってことは一般的な呼び方なのか。
「大帝、って多分すごい皇帝ってニュアンスなんだと思いますが、それ揶揄じゃないんですか?」
「そういうニュアンスで呼ぶ貴族はいた。居たけどいまじゃ下手な貴族よりありがたい行動をするからみんな尊敬してるよ」
ウェイバー伯爵はそういって話を切り替えた。そして聞かれたのは大事な点だ。
「それじゃぁ君はこれからどうする?」
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