10話 売り込め
「俺がか?」
「えぇ、聞きましたよ。最近畑を増やしたが人手が足らないとか」
おじさん情報だ。
「何ができるわけじゃありませんが、なんの知識もないなりに豚小屋の掃除くらいはできましたし、鍬を持って畑を耕すくらいなら私だって見様見真似でできるでしょう。力仕事は得意じゃありませんがわがままは言いません。高いところは苦手じゃありません。牛や馬に乗れと言われても乗れませんが、努力しましょう。そういった雑用係ありませんか?服は、まぁ当分はこれでいいんで、食住をまず確保したい。給料も出していただければなお嬉しい。衛兵に駆け込まなくて済むから」
「うーん」
ここはもうひと押しか。
「今後なんかの間違えか神のご采配で私がなにかに目覚めたら、いんちき臭い宗教とよくわからない政治思想以外で、と例外をつけたうえで真っ先にお伝えしましょう。あなたの利益のために働きます。それに土地が余ってるんでしょう?土まみれの服装でも一つ貴族らしく馬でも飼ってみてはいかがですか。そうなれば人がまた入りましょう。人がたらなきゃどこかから雇うしかないが、都会で学問を収める若者をやとうわけにもいかない。なら目の前にいる私雇って損はありませんよ。天地がひっくり返っても利益になると言い切る勇気はありませんが、まぁその点は努力してあなた様に得があったと言えるようにしましょう」
「お前は詐欺師のなりそこないみたいだな」
親方様はそう笑った。
素朴とも豪快とも言える笑い方。この世界の貴族というのは今この段階において彼一人しか見ていないが、貴族らしくない。やはり大工の棟梁のほうが印象としては近い。こちらは一人もみたことがないが。
「わかった。一つ家の者に相談してみよう。家で人を雇うのは俺の一存じゃぁ無理だが、確かに常設で人を雇うかという話はでていたんだ。読み書きはできないってことなら重要な仕事は任せられないが、それは覚悟しておけ。まぁ少なくとも今日明日くらいの宿と飯は提供してやろう」
「感謝の気持をいかに表すべきか、そういった言葉を持ち合わせていないことを後悔していますよ」
最大級の感謝の言葉など知らぬのだ。
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