36 エルフ領

エルフ領は森の中にある、というよりも森の中にエルフ領がある。

高い木々の間を切り開いて家を建て、広場を作り、畑を作り、作業場を作る。どこから入ってるのかわからない光のおかげで外と同じくらい明るい。

「この明るいのは魔法だ。外の光を通しているのさ」

「これが魔法。そんな事せずに森の外で暮らせばいいのに」

「それを本人たちに言うなよ。プライドみたいなものなんだから、損得で割り切るもんじゃない」

エッダがそう注意した。

確かに軽率。土地に愛着がない僕のような流れ者の意見だ。

そんなことを考えていると、集会場の周りにいたエルフの一人にエッダが話かけた。

「いいか」

「これはドワーフと人間の旦那様方。ちょいと問題があっておもてなしはできませんが」

ずいぶんと腰が低いエルフの女だ。

「事情は知ってるから。俺たちも手伝いに来たんだ」

「そいつはありがてぇ。どうぞ中に入りなすって。族長様がおいでです」


エルフの族長というのは金髪の美人だった。

エルフ族というのは金髪が多いのか、体のラインを見せないゆったりとした服に金属と皮の鎧。

年齢は僕より若いがあのメイドよりは上、大学生か高校生くらい?まぁ僕と同じくらいな見た目のエッダが40過ぎなのだから宛になるものではない。

「ドワーフ族の殿下、これは」

「そうい格式ばったのは良いよ。子どが居なくなったという話を聞いたんで、一つ手伝いに来たんだ。人はいくらいてもこまる事はないだろうとおもってね」

「それはありがとうございます」

そういって族長は深々とお辞儀をした。鎧が机にあたり音を立てる。

「失礼。まだ慣れないもので」

そういって恥ずかしそうに笑う。まぁ若いか新人なんだろう。そう考えておく。実年齢100歳とかでも驚かない心構え。


「そういう話は後回しにしよう。どこを探してるんだい」

「とりあえず四方の森に人を回しています」

そういって地図、といってもすごく曖昧に「この辺が山」「ここに岩」位のことがわかる程度のものだ、を数か所指さす。

「餓鬼は意外と遠くまでいくからなぁ。元気はあるのに帰ることを考えない。うちの近所の子供なんか家出だとか言って公国まで行きやがったからな。向こうの国境警備兵に捕まったて送り返してくれたからよかったもんで」

確かにそうだ。それに先ほどのエルフやドワーフの体力を考えると、子供といっても相当遠くまで行くんだろう。

「えぇ、ですから森でも危険な地域をまず虱潰し探している状態です。森の外まで行ってなければいいのですが」

「そうか」

エッダはそういって親指をしゃぶる。

考え事をするときの癖か。こういうおっさんいるよな。

そして

「じゃぁ人間さん達は来て直ぐにで悪いが森の外を見てきてくれないか。あんたらが森の中を歩き回るよりいいだろう。エルフの子供なんか目立つから誰か見てればすぐにわかるはずだ」

「分かった。森の近くのやつにも聞いてみるよ。牛は置いていくからみなに馬を貸してくれないか」

おじさんはそういった。

「もちろんです。我が家の馬をお使いください」

「子供だからむやみやたらと連れまわしてもだめだろう。もし外で見つかったら外の医者に見せておいてくれ」

「わかった。よし行くぞ」

エルフ族長はそういって近くに控えていたエルフの男に指示をだした。

男はおじさんたちを連れて外に行く。エルフ領では馬がいるのか。

「じゃぁドワーフは森の捜索に加わろれ。森の道沿いを中心に探すことにしよう。奥さんたちは、エルフの女と一緒に飯でも作ってくれ」

「ヘイ!」

「わかったわ」

体力自慢のドワーフはあの健脚で走り回る計画ということか。

ドワーフ族長の息子、というだけあって頼りがいがある。

エルフ領ででかい顔していいのか、と思うがまぁ本人が文句言ってないからいいだろう。

そしてだ。

「僕はどうしましょう」

馬なんか乗れんのだ

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