26 預ける場所もないと困るのが大金

「お金をもらっても預けておける場所もない。隠しておける場所は鍵もない倉庫の二階だけって状態なので、この銀貨をそのまま貰っても困るんですよ。なんとかなりませんか?」

目の前にたされた初任給と諸手当、服や必需品を買いなさいと言って割増でくれたそうだ、渡された数枚のピカピカの銀貨を見て、私はウェイバー公と執事ににそういった。

価値はどの程度かわからないが、衣服代に必需品など諸々払うには十分とのこと。

そうなると保管場所は割と切実な問題である。

「そういうものか?」

「倉庫の二階にすんでますけど、あそこに銀貨を蓄えても不用心でしょう。金庫持ち込むわけにも行かないし、鍵がかからない部屋で金をベットの下に積み重ねておいたり、首から袋をぶら下げておく勇気はありません。なにかいいアイディアがあればそれでいいんですが」

「いくらこの辺の治安がいいとはいえ、確かにそれじゃ不用心ですね」

執事はそう答えた。

「他の者はどうしてる?」

「大概のものは部屋の据え付け金庫に置いて定期的に商会組合に渡したり、御用聞きに渡して近隣の実家に送金したりしています。普段からツケで初日に支払いで全部使ってしまう人不届きものもいますが」

つけ払い、つまり借金だが保管場所がないなら理にはかなってる。

それじゃあ金は貯まらないと思うが。

「そうか、じゃあ屋敷の方に来るか?正式採用だし。それなら金庫もあるだろ?」

「今の仕事は朝の水くみから始まるので今の所のほうが何かと便利がいいんですよ。それに夜も静かだから結構気に入っているんです」

「たしかにあそこは水くみ場から近いからな」

プライバシーも完備されてる。と言っても帰って寝るか、月明かりの下で体を洗うかの二択くらいしかないが。

「困りましたね。 知り合いや親戚なら私が預かるというのも一つの手ですが、 そういうわけでもありませんし。使用人同士での金銭のやり取りはあまりよろしいこととは言えませんからね」

「じゃあ僕が預かって、預り書を書こう 。それでどうだ。必要になったらその都度君に渡すことにする」

「そういったことでしたら、特に不満はありません。よろしくお願いします」

「じゃぁまず当分の生活費を渡すべきだな。いくら欲しい?」

そもそも金銭の単位を知らないのでいくらと言えばいいのかわからない。

「服はみなさんからお古をもらいましたので当分はこれでいいですし、食費や住居費はかからないし」

「あぁ、言い忘れていたが本採用なら休みの日は朝食しか出ないぞ。残りは食堂で自費で買ってもらうか他所で食べてくれ」

「そういうことだったら飯代はいるなぁ。お古があるとはいえ下着くらいは買いたいし」

「あそこならカーテンかなにかあった方が良いんじゃないか?」

これは執事の言葉。彼も下働きの頃はあそこで働いていたとかで、なんどか様子を見に来てくれた。

「最近気づいたんですが、日が出るくらいに起きて日が落ちてから帰るだけなのでいらないんですよね。外からのぞける場所もないし。なので、えっと、来週の給料日までに1日休みですから、3食分に下着を二、三着、あと雑貨やおやつを買える程度費用が欲しいです。大変おおざっぱですが」

「じゃぁこんなもんだな」

そういって執事は小ぶりな銀貨を半分に折った物をくれた。

折った、というのは比喩ではない。文字通り銀貨を半分に切ったものだ。切り口の処理をしてないのか触るとギザギザしている。

「切っていいんですか?これ」

「君の世界では切ってはダメなのか?この国だと半貨と呼ばれて出回ってるが」

ウェイバー公はそういった。何がおかしいのか?という具合。

こういう事に触れると私は異世界に来たのだと思う。

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