40 先に書いておくがこれは後から聞いた話だ。

40


先に書いておくがこれは後から聞いた話だ。


足跡をたどり森をすすんで行ったエッダは、大きな木の陰で座り込んでいた少女を見つけた。

彼女曰く「帰り路にいきなり暴れ馬が飛び出てきたから逃げようとして森に逃げ込んだ。無我夢中に逃げ回っていたら道に迷ってしまい、足も挫き、途方に暮れて泣いていた」といった具合。

「あの辺は野生動物が出ないように魔法をかけてるはずなのですが」

とはエルフの族長や幹部連中の話。

なのでみんな谷側ばかりを見ていたということだろう。以外な所に落し物は落ちている。

まぁ魔法がどうであれ馬がでたのは事実。なので今後エルフ族で狩りを実施するという事。

とにかくだ。問題の少女を見つけたエッダは、ドワーフ族に備わるすごい能力でエルフの少女をおんぶしたままあの険しい山をおり、村の衆に伝えたのだという。

そこにはちょうど外からやってきた親方様と衛兵ご一行様もおりあれこれやりとりをした、


これはよかった、探してる連中に連絡をしてもどってこさせよう、みなさんありがとうございます、些細なお礼ですがお昼を食べて行ってください、お酒も出しましょう、私はまずその子をみなくちゃな、足をくじいた程度だろうけども親御さんに連絡を、そうだそうだ、いやとにかくよかった。


そんな具合で方々に人が飛び回り、そして集会場に集合した。

そして簡素ながら食事会。親方様、エッダ、エルフ族の族長(名前はキーリーというらしい。あとから人に聞いた)探索に加わったドワーフに人間、エルフ、外から呼んできた医者の先生に奥様方が席に付き乾杯。仕事があると先に帰った衛兵も手には食事を詰めたパックを渡す。エルフ領の食事はうす味だがうまいのだという。そして少しばかり(監視役が多いので大酒という分けにはいかない)の酒、そしてミッションを成功させた手柄というわけでみな上機嫌だった。


「なぁそういえば、あのお兄ちゃんはどうした」

そんな中一人のドワーフが顔なじみの人間にこう口を開いたそうだ。

「誰のことだい」

「異世界から来た兄ちゃんさ。いないんじゃないか?」

「あぁ馬に乗れないいうから、女共と飯炊きの手伝いをするってことで置いていった。食堂の下働きだからそんくらいはできるってよ」

ドワーフの彼は僕にこだわったの理由は割と単純。新入りだし外から来たんだ、こういう宴会じゃ肩身も狭かろう、すこし構ってやろうか、というおせっかいとも優しいともいえるおっさんメンタル。

というわけで次に呼びかけたのは、エルフの女衆と世間話に花を咲かせていた自分の嫁さん。

「おい、お前よ」

「なんだい。お代わりなら自分で盛りなよ。餓鬼じゃないんだ」

「ちげぇって。あのお兄ちゃんはどうしたんだ?異世界から来たあの子さ」

「あの子かい?少し思いついたことがあるとか言って出て行ったよ。そういえばいないわね。どこにいるのかしら」

「地図が見たいとか言ってたから、集会場にあるって教えてあげたましたよ」

「そうか。じゃぁ族長様なら知ってるかな」

この段階になるとおっさんも別の考えが頭に浮かんでいた。

何と言ってもついさっきまで迷子の捜索をしていたんだから、疑いを持つのは当然といえば当然。


年若ながらしっかりしてる印象だったがよそ者だ。それに道になれて元気があるエルフの子供でも迷い込んだら帰れなくなったんだ。よそ者がなんかの間違いで森に迷いこんじまったじゃなかろうか。


そういったわけで、各種族の代表があつまり食事をしながら談笑してるテーブルに一人ちかよっていた。

特に深い理由はないが、なんとなくみんなそのテーブルとは離れている。まぁ普段から気軽に会話出来て階級を気にしない人たちといっても、この地域のトップスリーが一つのテーブルに集まってるから仕方ない。

「親方様。キーリー様、楽しんでる最中にすいやせん。坊ちゃん。ちょいといいですか」

「なんだ?あらたまって」

エッダは聞く。

「異世界から来た兄ちゃんの姿が見えねぇんですが、坊ちゃんなにかご存知ありませんか。女共に聞いたら地図を見たいと集会場に向かったんじゃねぇかって言うんですが。子供じゃないと言ってもここいらのことをまだ良く知らないよそ者でしょう?もしかするとどっかの森に迷い込んじまったってことはねぇかと気になっちまいまして」

「あぁ」

「あぁ」

エッダとキーリーは別の意味で同じ反応をした。


僕が件の少女と違うのは大の大人だということとと、別に馬に追われたわけでもないということだ。

つまり、言われた通り道端で座り込んでた。

そこに通りかかった例の迷子のおばに事の次第を聞き(馬ではなくロバに乗っておっとり刀で駆け付けたらしい)どうしようもないということで「というより君忘れられたんだろう、田舎者はみんなその辺緩いからね」というおばさんの後ろについて帰ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る