43 「君を雇って良かったよ」
あいかわらずケツが痛い牛車に揺られながら進む帰り道。
ついてきた使用人の一人が御者(牛の場合でもこれででいいのだろうか?)となり、後ろの荷台にウェイバー伯爵と私。
「しかし、君、活躍したそうじゃないか。エッダに示唆したのは君だって話だったぜ」
「活躍。というほどではないんですよね。別に僕の予想が当たったわけでもないですし」
「結果があたればいい、ってことさ」
「そうは言っても、自慢できるほどの事でもないでしょう。昼飯がでると聞いてたのに、食べ損ねたし」
「そこかい?」
なんとなく聞いていたのだろう御者がそういって笑った。そして
「君もおなかすいてるだろうと思って残ったやつを詰めてもらったよ。あとから食べるといい」
と荷台の端にくくりつけてある袋を指さした。
「ありがとうございます」
その光景を見ていた親方様は、何を思ったか笑って
「なんだろうね。君。特に特技なんかないって聞いてたが」
「えぇ、今でも変わりませんよ」
「でも少しは活躍したじゃないか」
「いやぁ」
この世界に来てやったことは食堂の下働きと豚小屋の掃除くらいだ。
「豚小屋と食堂の下働きは活躍とは言いませんでしょ。ここ最近、自分でしいて目立った働きと言えるのは迷子探し、それだって金になったかといえばそうじゃないし、なんかすごい能力でずばっと解決なんてことでもなく、偶然見つけたに近い。こんな僕はそれ以上の仕事ができるとも思えません」
「それ以上の仕事をしよう、って気を起こさないか?都会に出て立身出世、そこまではいかなくても屋敷から独立して近くに家を買うとかさ」
「うーん」
僕は考える。生まれてこのかた幸福に恵まれた思いではないが、かといって不幸と嘆くほどの人生でもない。
こっちに来てからもそれは変わらない。
異世界といっても田舎、飯は素朴ながらうまい、労働法などあるか知らないが雇い主は何かと気にかけてくれる、同僚はみな優しいし、上司は何かと丁寧に教えてくれる。
しいていえば朝が早いのが辛い。水が冷たい。
だがそういう話は些細なことだろう。わがままを言ったらバチがあたる。
「先のことは正直わかりません。ただ3つ言えることはあります」
「なんだい?」
「一つ目は立身出世するにも、ここに家を建てて落ち着くにも、都会にいって帰るための道筋を探すにしても、世の中何をするにも金が要るという事。二つ目は今の職場は給料が高いのか安いのか判断はできませんが待遇としては大変良くしてもらってるという事。ですから、当分はよろしくお願いいたしますということの三つです」
それを聞いた親方様は笑った。
御者も笑った。
つられて僕も笑った。
そして親方様曰く
「君を雇って良かったよ」
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