第38話 エイプの森①
【 猫達の離島 8日目 】
「ギャォーン!!」
「ワォーン!!」
訓練場に響き渡る、戦いの咆哮。地面に無数に残るクレーターと、地割れのような亀裂。
成長して2メートルを超えるドラゴンと、小柄なコボルトの一騎打ちだ。時には魔法が飛び交い、砂煙を上げながら……激しく攻撃しあう姿は、もはや訓練とは言えない程の、凄まじい光景だ。
「うわぁ、魔法をぶったぎった!」
「ガウッ、あの大太刀の威力も凄まじいですな」
「あれでも、練習用の大太刀なんだけど……」
守護者のライガーと共に、訓練風景を観察しているマスター。
エイプの森へと出発する朝方。
体を慣らす程度といいながらも……凄まじい戦いをしているのは、守護者のソラとマシロである。
防衛拠点の中央広場。
そこには、大きな石碑と女神像が建てられ、文字が綴られている……。
◇力を持つ者は、驕る事なかれ
◇生命と自然の恵みに感謝を
日本人は食事の前に、『いただきます』と挨拶をする。
その言葉は、奪った命に対して食べられる事。何かを贈られた事への感謝など、状況によって色々な意味が込められた、祈りにも似た言葉だったのではないかな?
礎となった命に対して『感謝するという心』を忘れないためにも、石碑に記して教訓としている。
モンスターなどの多くの命を奪ってきた自身には、矛盾するような綺麗事かもしれないが……。感謝する心を忘れた、無差別な殺人鬼にはなりたくない。
石碑の傍にある女神像は、前世で出会った巫女装束の、神秘的な少女の『神様』が祭られている。
前世で助けられた感謝を。そして、この世界へ招いてくれた感謝を。
「ではこれから、エイプの森へと攻め入る。決して単独行動をとらないように。仲間と協力しあって、戦いに挑むぞ!」
集まった部隊は、防衛拠点の守備に100名、巡回部隊が20名。攻め入る本隊は、精鋭150名の大部隊だ。
本拠地であるダンジョンでは、さらに戦力が増強され、新人メンバーが多いが、1000名近くの配下モンスターになっている。
余談だが、名付けが大変になった結果……途中からは、スケルトン種の名前が、ワン、ツー、スリーなどシンプルになっているとか。
「わぅ。腕が鳴りますね!」
「ガウッ。我らの準備も万全ですぞ」
守護者達や配下モンスターの様子を見ても、やる気充分といった感じで士気が高い。この日のために、様々な装備や物資も用意してきた。
島のヌシと戦う前の、前哨戦。
これからの士気を維持するためにも、『負けられない戦い』となる。
川の上流にある湖まで向かい、充分な水分を補給した後。いよいよエイプ達の住処である、深い森へと侵入だ。
初日の目標は……森の中で地上部分にいる敵を、索敵しながら倒していく事。ダンジョンを見つけたとしても、入り口を封鎖し、先に地上の敵を優先して倒していく。
周囲にはウルフ達を筆頭にした警戒網を敷き、投げ槍を持ったコボルト達が先頭を進む。
コボルト達の後ろには、いつでも飛び出して行けるように、ビッグタイガーなども控えていて、いつ戦闘が起こっても、充分に対処が可能だ。
マスターが居る中心部分は、周囲を護衛部隊が囲み、さらにその周囲を遠距離攻撃が得意なアラクネ達が囲むという、鉄壁の布陣になっている。
不気味に静まり返る、深い森の中。時折り小規模な戦いが発生しながらも、順調に進んでいく……。
前方の部隊が隠れるようにして静止し、守護者のライガーがマスターの元へと駆けつけてくる。
「ガウッ。マスター、前方に100近い敵の集団。新手のゴリラも居るようですぞ」
「わかった。部隊静止!作戦通りに、上空部隊から痺れ粉をまく。粉が収まったら突撃だ!」
マスターが用意していた作戦を実行しようと、配下達に冷静に指示を出す。
今回用意したのは……魔の森に居るという、食虫植物から採取できる、痺れ粉を使う作戦だ。
ダンジョンに居るドライアドに協力してもらって、様々な植物を育てていて、その植物から手に入れた薬の一つ。効果は……短時間の間、手足が痺れるという程度の物だが、上手く使えば効果は高まるだろう。
相手の攻撃が届かない上空から粉を撒き、風魔法で相手に誘導する。
見た事が無い謎の粉が飛んでくる。対処法がわからなければ、敵にとっては地獄だろう。準備していたマスクを付け、抵抗力を高める解毒剤を飲む。
そして、ついに上空から痺れ粉が風に乗って、敵陣営へと降りかかる。
突然の出来事に、叫び声を上げながらパニックになるエイプ達。気が付いた所で、冷静に対処できなければ意味がない。
「よし。弓部隊、狙い撃て!! ……全員突撃!! 油断せず、確実にしとめていけ!」
「わぅ。敵がパニックになってますね」
味方へ的確に指示を出しながら、自分自身も魔法攻撃で味方を援護して、順調に敵を倒していく。
「敵を貫く石の弾丸よ……ストーンショット!」
無詠唱でも放つ事が出来る魔法だが、詠唱してイメージを高める事で、魔力の節約と威力を高める事も出来る。
「ギャォー!!」
「ウガァー!」
上空から、突然急降下してきた守護者のソラが、敵の主力であるゴリラへと襲い掛かる。
(魔眼、鑑定!)
【 種族 】キラーエイプ
【 名前 】
【 レベル 】32
【 魔力 】293
【 加護 】筋力増幅 ダンジョンの眷属
【 スキル 】魔力操作2 統率2 体術5 隠密2 身体強化5 感知系:気配3 魔力3 魔法系:土3無5
ゴリラのような外見をした敵の名前はキラーエイプ。
加護を見る限り、やはり近くにはダンジョンがあるという事か。なかなかの強敵だが、成長したソラなら大丈夫だろう。
【 種族 】ブルードラゴン(亜種・幼生体)
【 名前 】ソラ
【 レベル 】☆35
【 魔力 】☆892
【 加護 】念話 魔力増大 原初魔法 竜の咆哮 ?????
【 スキル 】☆魔力操作5 ☆体術6 感知系:☆気配3☆魔力4 魔法系:☆水4☆風4☆光3☆無5
ソラは以前より体格も大きくなり、スキルも全体的にかなり伸びている。
普段は愛くるしい仕草で可愛いが、戦闘になると本能が刺激されるのか、様子が一変し激しい戦いぶりになる。
上空からの奇襲で主導権を握り、そのままあっさりとキラーエイプを倒してしまうソラ。
ライガーなどの他の守護者達も参戦し、あっという間に倒されていくエイプ達……。日々成長し続けている、頼もしい仲間達だ。
「う~ん。これだと、俺の出番がないなぁ~」
「わぅ。マスターは指揮官です。冷静にドシっとかまえて居てくださいね」
自分も前線に向かって、刀を振るいたいけど、マシロに止められてしまう。
エイプ達との戦いは始まったばかり。今回は上手く作戦がハマって、敵の大部隊を倒す事が出来た。それでも……相手側にも、ダンジョンの眷属がいる。油断は出来ない。
「敵の死体は、ワイバーン達にまかせて、さらに森の索敵を続けるぞ!」
地上と上空の両面から、さらに索敵をしていく。
見つけた敵は、上手く仲間と連携しながら倒して、順調に敵の数を減らしていく。
「ガウッ。水場の先に、ダンジョンを発見しましたぞ」
「よし、警戒をしながらダンジョンに向かう!」
向かった先には、大きな口を開ける洞窟ダンジョンが見える。
「あそこか……。入り口の敵を、素早く倒そう」
「ガウッ。了解しましたぞ」
忍者のように、静かに素早く近づいて、あっさりと敵を倒すウルフとコボルト。
入り口の敵を倒した後は、予定通りに大岩で入り口を塞ぐ。そして、外へ出てくる者が居ないか警戒しつつ、簡単な防御陣を敷く。
「土壁で入り口を囲って、出てくる敵が居れば、一斉に狙い撃ちにするぞ!」
入り口をうまく塞ぐ事に成功した後は、40名程を残して、また地上の索敵だ。
冷静に周囲の警戒を続けながら、地上のエイプ達を倒す事2日間。……やっと、南西地域が落ち着いてきた。
残すはダンジョンの攻略。
中にはどんな敵が待っているのか――新たな戦いが、今始まろうとしている。
「あ~~~!!俺も前線で暴れたいっ!!」
「わぅ。我慢してくださいね」
ダンジョンマスターは、指揮をするよりも、前線で体を動かしたいようだ。
――――
◇豆知識
魔物:別名はモンスター。魔石と言われる核を持つタイプ。下記の魔獣、魔者、魔人の総称。
魔獣:獣タイプ
魔者:人型タイプ
魔人:知性の高い人型タイプ
亜人:魔石の核を持たない人間そっくりな獣人など
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