第37話 鍛冶場で作られていく新装備
エイプがいる森へと向かう準備が、忙しく行われている。
そんな熱気に包まれる中、今日も金属を打つ音が響き渡る。
『カンカン、カンッ!』
「よし、出来た!!」
小柄な体に魔力を巡らせながら、身体能力を高めて、正確に振り下ろされる槌。
自身の体より大きな、合金製の刃物が、次々と出来上がっていく――
「コテツ、持つ所の柄の作成は任せたぞ」
「わんっ」
作られているのは、大型の魔獣相手に使う『大太刀』だ。
刀身は2メートル、持ち手は1メートル程ある大きな刀。重心のバランスが難しく、持ち手側を重くしてみたりと、バランス調整が大変だった。
持ち手の部分の調整をするのは、最初期からいるコボルトの職人コテツ。
名付けをした時から、刀を一緒に作りたいと思っていた。熱さに弱いコボルト達の中でも、熱気に負けずに鍛冶場によくきて、自分自身で武器を作る事も多いみたい。
最近では、ミスリル素材を合金化して使った物だけではなく、魔石を砕いて練りこんだ物など、種類がどんどんと増えてきている。
そしてさらに、日本刀以外にも、他にも様々な武器を作っている――
『カンカン、カン!』
「……使いこなせるなら、これも良い武器だなぁ」
日本刀による一瞬の切れ味とは違い、頑丈さと重さを大幅に増した、重量級武器シリーズ。
一撃の威力を重視し、重量のある素材で、幅広く肉厚の刀身部分が特徴の戦斧だ。さらに、片刃の戦斧と反対側が槌になっている、威力と重量を重視した物など様々な物がある。
持ち手の部分が長く、斧と槍の機能を両方備えたハルバード。
その機能は、薙刀ともよく似ているが、槍と刀身が分かれている事で、相手の攻撃を受け止める事も出来る。
扱うためには、高い身体能力と、魔力による身体強化が必要とされる、重量級の武器。
「うわぁ、さすがに重たい。魔力強化なしだと、持ち上げるのも大変だなぁ」
タートル系の魔獣には、刃物よりも戦槌などの方が、効果が高い事もある。相手によって、色々な武器を使い分けていきたい。
色々な武器を作っている中、変わった武器が量産されている。
「ふぅ……。シンプルで簡単だけど、数を作るのは大変だなぁ」
マスターが作っているのは、針を巨大化したような武器。貫き丸シリーズと言われるそれは、完全に突き刺して、貫通させる事だけを特化した、変わった武器だ。
大型の魔獣相手でも、巨大な貫き丸で突き刺すと……刺さったままの武器が動きを阻害し、行動を鈍らせる事も出来る。シンプルな機能や外見とは裏腹に、効果的に使う事が出来れば、使い道は多そうだ。
そして、鍛冶場で作られているのは、武器だけではない。合金した素材で、様々な防具も作られている。
腕に取り付けるようにした、小型で攻撃を受け流す小盾。体を覆いつくすような、大型の巨大な盾など、大きさは様々ある。
巨大な盾の中には、地面に太い杭を突き刺して、位置を固定するタイプの物もある。ロックタートルの岩石攻撃など、強力で質量のある物理攻撃が飛んできた時は、役に立ってくれそうだ。
「レン様、新しいお召し物が出来上がりましたでありんす」
「へぇ~。これはすごい。かっこいいね!!」
凜がマスターへと、自信満々といった様子で黒光りする防具を手渡す。
それは肩から足元まで包むように覆ってくれる、フード付きロングコートだ。ミスリルと特殊な魔糸で、特別に作られた貴重な一品。
全体は黒で統一されているが、背中には竜をデザインした、カッコイイ銀色の『紋章』がデザインされている。
パッと見ただけでも、別格ともいうべきコート。実用性の面でも、かなりの防御力がありそうだ。
「背中の竜は、私達のレン様の象徴でありんす」
「ありがとう。デザインも気に入ったよ!」
凜にロングコートを着せてもらい、くるりとゆっくり一回転。本当に嬉しそうなマスター。
前世では、竜馬という名前だった。それにちなんで選ばれたのが、西洋の竜ドラゴンのデザイン。
本来は同じ意味を持つ、竜と龍という漢字。東洋では龍が多く使われていて、蛇のような細身な外見のデザインが多い。それに対して竜は……なんとなく、西洋の外見の太いドラゴンのイメージがあって、使い分けている。
「凛。防具と、和弓の製造は大丈夫?」
「はい。コボルトやアラクネ達も協力してくれているので、なんとか間に合いそうでありんす」
職人の数が増えたとはいえ、忙しそうな凜を心配するマスター。
今では建築コボルトと、職人コボルトは、完全に専業として分かれてきている。アラクネ達も、生活用品の衣服や、魔獣素材を使った防具を作り、さらには和弓の製造など、様々な場面で活躍してくれている。
「戦いの前で忙しいけど、一緒にがんばろう」
「はい。レン様は、がんばりすぎて無理してはダメでありんすよ」
まだまだ完成していない、試作品だけの武器もある……。
忙しい日々の中でも、武器作りはやりがいのある楽しい生産だ。落ち着いてきたら、ゆっくりと新装備の開発も進めたいなぁ。
熱気のある鍛冶場と同様に、防衛拠点の設備も充実してきている。
防具や衣服を作成する所。薬品を調合する所。多種多様な工房がある――
エイプ達との決戦まであと僅か。あっという間に、時間は過ぎていく……。
「わぅ、わうーっ!!」
「あっ、コテツの毛がこげてる……!?」
夢中になるあまり、毛がこげてしまうコボルトがいるとか、いないとか。
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