第16話 楽しい娯楽

 ダンジョンの戦力を増強する為、訓練をする日々。


 そんな日常の中……。

 最近は、『娯楽』としての遊びも増えてきている。




「ふっふっふ!この大妖精ティナちゃんにかかれば、こんなゲームなんて楽勝よ!!」


「ちなみに、今までの成績は?」


「私は過去の些細な事なんて、振り返らない女なの!この私は……未来に向かって生きてるの。まだまだ成長期なんだからね!」


 威張って発言した内容とは裏腹に、強さは主要メンバーの中でも、下から数えた方が早いといった具合で、負け続けているティナ。それでも楽しそうに、騒ぎながらプレイしている。


 そしてなんと、最下位はライガー。


 相手によって対応を変えながら、接待プレイをするように、相手に勝たしてあげているみたいだ。本気を出した時の実力は、かなり高いみたいだ。


 そして、このゲームの提案者であり、現在負け知らず。連勝しすぎて、相手がいなくなった者が一人。


「このゲームなら、負ける気がしないぞー!」


 それは、ダンジョンマスターのレンディだ……。

 前世で色々なゲームをやりこんでいて、この手の頭脳ゲームは、かなりの得意分野だ。


 ゲームとはいえ、常に本気。

 初心者相手にも容赦なしという、対戦した相手が……あまりの次元の違いに、絶望してしまう事もある程だ。


 そう、最近はやっているゲームとは……『オセロ』である。


 盤は木材を加工して作り出し、駒は土魔法の形状変化で作っている。物作りの練習もかねていて、土魔法も得意なコボルト達がみんなで作っている。


 今では、慣れた者が木の部分や駒の裏表にデザインを描き出し、それぞれ個性ある物が出来上がっている。


 オセロだけで、技術・芸術・知恵・娯楽といった、たくさんの過剰効果が生まれている。


 きびしい訓練を、こなすだけの日常じゃつまらない。


 楽しく生きていくための『娯楽』、辛い生活の中にも夢や希望がどんどん生まれて来るような、そんな生活にしていきたい。


 生きていく為の活力が溢れれば、みんなの気持ちも前向きになり、辛い事があってもみんなで乗り越えられるようになると良いなと思っている。


 思いついた限りに色々と試してみたが、縄跳び・的当てスリング・隠れんぼ・鬼ごっこなどは、楽しんで行えるようになり、スキル獲得に繋がる者がたくさん出ている。


 訓練としては、さらに相撲や柔道、ボクシングや空手などの各種格闘技も取り組んでいて、余裕が出来た時には、闘技場を作ってみんなが観戦しながら楽しめる場所も作りたい。


 まだ先になるけど、いつかは娯楽の為の大会、格闘技のチャンピオンを決める大会など、訓練と娯楽をあわせたお祭りなどもやっていきたいな。


 なおダンジョンマスターは、ティナの口調が移ったのか……。


 娯楽や訓練で負ける度に、悔しそうに……まだ俺は成長期なんだからな!!などと言っているようだ。





「るぅ~る~るるぅ~るるぅ~るんっ♪」


 鼻歌を歌いながら、新しく作っている物がある。


 前に、遠く離れた場所にいる仲間に連絡を取るために、ホイッスルを数個だけ木材で作ってみたんだけど、甲高い音を出して連絡しあうだけなら便利だった。


 でも、どうしても作ってみたい物がまだあって、今回はそれを作っている。


 鼻歌を歌いながら作っているそれは、粘土で大まかな形を作って、水で表面を滑らかにしながら、先の小さな棒や、尖った木材などを、彫刻刀のように使いこなして、音を出す穴を開けたり、細工したりしている。


 出来上がった形だけなら、見た事がある人も多い、あの楽器だ。


 それは……粘土で作った『オカリナ』だ。


 木材、粘土、石材など素材によって音色が変わってくる。粘土で作るオカリナは、誰もが作る事が出来て手軽だ。柔らかい音も出て、心が不思議と落ち着くような音色が出る。


 必要な素材は粘土だけで、他に重要になるのは形と音を調整する、手先の器用さと音感だけだ。


 前世で楽器を作った経験を活かし、簡単に作れて音色が奇麗な物を考えていて、真っ先に浮かんだのがオカリナだった。


 音楽というのは、気持ちを落ち着けたり、興奮させたりと様々な効果がある。娯楽としての音楽が、何気ない日常の中で、いつの間にか心の拠り所にもなれる存在になってほしい。





「上手く焼けるといいなぁ。ここは試行錯誤していくしかないかぁ~」


「わぅ。どんな音がするのか、楽しみですね」


 形を作った後は、小さな土窯を作り、そこで火魔法などを使って、粘土のオカリナを焼いていく。試作品として、粘土の他にも……木材で作った物や、土魔法で作った石のオカリナも試しに作っている。


 着色に関しては、植物や果実から作った物を使い、シンプルな色合いを試してみている。そして、何度か試行錯誤して失敗しつつも、これなら大丈夫かな。という成功品がいくつか完成する。





「トゥルル~♪トゥルルル~♪」


 完成したオカリナを吹きながら試していると……自然と、みんながどんどん集まってくる。


 初めて聞いた音楽に興味津々。最初は、物珍しそうに見ていたみんな。


 次第に手をたたいたり、飛び跳ねたり、音に合わせて反応する様子がどんどん大きくなり、たくさんの配下が勢ぞろいして、まるでお祭りのようになってきた。


「よ~し、今日は初めての、『音楽祭』だぁ~♪」


「わぅ。きれいな音がしますね」


 試しにと、吹き方を教えて試してみると、自分の出した音にビックリして、こけてしまう者がいたり、上手く音が出なかったり、ヘンテコな音をひたすら出している者がいたりで、大騒ぎになって大変だった。





「わぅ。このオカリナというやつ、私もほしいです!!」


「レン君、私もほしい!」


「ちょっと、私が先よ!!ティナにまかせればすごい音楽が出来るんだがら!!」


 たくさんの者がほしがり、取り合いになりそうな雰囲気だ。みんなを落ち着ける為に、新しくオカリナを大量に作る約束をしてしまった。


『音楽』という、音を楽しむという新たな娯楽が増えて、また楽しみが増えたなぁ~♪





 音楽祭が終わり、みんなが落ち着いてきた頃。


 家で2人きりになれた時、マシロにさりげなく声をかける……。


「マシロへの『プレゼント』があるんだ。いつもありがとう。ペンダントにした、オカリナだよ」


「えっと、ありがとうございます。本当に嬉しいです」


 マシロにかがんでもらいながら……自らの手で、マシロにペンダントオカリナを付ける。


 初めてのプレゼントにビックリしていたけど、本当に喜んでくれて良かった。


 思えば、今までちゃんとしたプレゼントをした事がなかった。初めてのプレゼントは、サプライズとして……初めての守護者であるマシロに、感謝を込めて贈りたかった。


 不安になる事もいっぱいあった。


 でも、それでも……いつもマシロが傍にいてくれて、本当に感謝している。


 自分一人だけの力だと、ここまで上手くいかなかったと思う。本当にみんなの協力があって、なんとかここまでやってこれた。


 マシロだけじゃない。他のみんなにも感謝したい。新しく作るオカリナにも、一人一人思いを込めて作りたいな。





 辛い訓練ばかりの日常から、楽しむ娯楽も増えて、ますますダンジョン生活も充実してきた。やりたい事ばかりの日々だけど……娯楽の充実は、心の成長と幸せにも繋がりそうだ。


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