第17話 加熱する音楽熱と日本刀
ダンジョンである洞窟の中。
屋根の上から、きれいな音色が響く……。
「トゥ~ル~ルル、ル~ルル~♪」
外の世界に朝日が昇る頃、最近は日課となりつつある『目覚めの音楽』だ。
前世ではTVでよく聞いた『夜空の花』という音楽を、オカリナでアレンジして吹いている。
音楽が流行りだしてからは、ダンジョン内の活気が、予想以上に凄い事になっている。
あちらこちらから常に音が鳴り響き……オカリナ本体も、最初の頃に見本として作っていた物とは違い、個人個人で独創的な物など、様々なタイプの楽器を作る、職人コボルト達も増えてきた。
前世で見たような、複雑な楽器を作るのは難しいけど……音楽熱が落ち着いたら、簡単な太鼓などの打楽器や、フルートなどといった笛なども、今後は増やしていきたいと思っている。やりすぎると、音楽に夢中になりすぎるのが、怖い所だなぁ。
「今日の朝の訓練は、成績上位者には、特性のオカリナをプレゼントするぞ~!」
「「「わぅー!」」」
マスターが、ご褒美にと思って提案してみると、コボルト達の熱気がすさまじい。
何が何でも上位に入ろうとして……コボルト達は、いつもの何倍もの必死さで訓練をこなしていく。
「うわぁ。さすがに、プレゼントはやりすぎたかなぁ」
コボルトにとっては、マスターのオカリナは特別な別格品だ。
前世の現代人と違って、音楽の知識がないコボルト達には、マスターが教えてくれる、音楽の基礎と音程が基準となって、宝物みたいな存在なのだ。
熱気の凄まじい、朝の訓練を終える……。
昼食を食べた後は、また違う事を始めようと、鍛冶場へ向かうダンジョンマスター。
今日は、Dランクになった時に見かけた、ダンジョンカタログに並んでいる鉄のインゴットと、山中を掘り進んでいた時に見つかった、ミスリルなどの金属を合金した物とで、とある武器を試しに作る予定だ。
合金する時の配合を、実験するかのように色々と試して……硬さや強度など、様々なテストをしていく。その中から、今回は硬い金属と柔らかい金属の2種類を使って、日本人なら誰しもが知る、とある武器を作る。
その作る武器の名前は『日本刀』だ。
今まで見た事の無い、ファンタジー金属で武器を作るのは楽しみだ。魔力を含み、柔らかみのある銀色金属はミスリルで、他にはアルミナという宝石の元となる金属だったり、見た事の無い種類の物も色々とあった。
合金を作る実験は、魔力の余っている者に手伝ってもらい、土魔法によって様々な配合を試したり、魔力を充満させた所で、原始的にコークスや火を使って合金に挑戦してみたりと、やり方次第で結果は様々な物になった。
合金を作るための実験だけで、10日以上かけて実験している。
その中から、直観を頼りに……よさげな配合の金属を、試しに日本刀作りに使ってみる。
「よし、まずは試しに作ってみるか!」
前世に刀剣が好きだった父親の影響もあって、実際に何度も試しに作ってみた事がある。
熟練の職人には及ばないけど、いつかは自分自身の最高傑作だと思えるような、すごい日本刀を作ってみたい。
「カン、カン、カンッ!!」
あっという間に時は過ぎ……5本の試作品が、やっと出来上がる。
感覚として、今まで扱った事のない金属に、多少苦戦はしたけど……出来栄えとしては、なかなか良さそうな感じだ。
5本の中でも、異彩を放つ別格品が1本だけ作れた。試しに魔眼の鑑定を発動し、確認してみる。
【 名称 】無名の日本刀
【 品質 】ランクA
魔力を含んだ特別な合金を使って作られた、魔剣となる可能性を秘めた日本刀。
試作品として作ったにしては、品質がランクAと高い。
武具に鑑定の能力を使った事は無かったけど、こんな説明文とランクまで表示されるんだなぁ~。
まだまだ改良の余地は多いし、Sランクの武器を、いつかは作れるようになりたい。
「名前はどうしようかなぁ。う~~ん、ワイバーンの爪も入れてあるから、龍切丸にしよう」
作った日本刀の中でも、魔力を一番含んでいて、出来栄えも別格な物。
それに名前を付けて、ゆっくり魔力を流してみると……刀身が光りだし、まだ研ぎ終わっていないにも関わらず、刀との一体感が増してくるような、不思議な感覚だ。
「龍切丸、これから一緒によろしく頼むぞ!」
初めて作った、特別な日本刀。
自然とその出来栄えに見とれていると、愛着がどんどん湧いてくる。
まずは良品が1本完成。この合金の配合を基礎にして、何本か作ってみようかな。
後日、愛刀となった龍切丸で試し切りをして、その切れ味に驚く事になる。
その切れ味と美しさに魅了された者達によって、ダンジョン内で『日本刀ブーム』が巻き起こったのは、自然な流れかもしれない……。
「うわぁ~。最近は、物作りばっかりで、大変すぎるんだけど!!」
オカリナの次は日本刀作りと、予約が殺到してしまい、忙しい物作りの日々になってしまった。だが、大変だと言うわりには、マスターは嬉しそうである。
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