第18話 森の奥地の戦場①
【 異世界転生 50日目 】
本拠地となるダンジョンの洞窟から西へ向かうと、地平線の先まで続く……見渡せない程の巨大な森林地帯がある。その奥地には、未だに無数のゴブリンやオーク達の集落があり、危険な魔物の住む森となっている。
今日は、その危険な森への遠征をする日だ。
大広間へと出発メンバーが集まり、準備が整う……。そして、ダンジョンマスターであるレンディから、出発前の挨拶が始まる。
「まずは、出発前に1曲演奏しようと思う。では、聞いてくれ」
「トゥルル~ルル~ルルル~♪トゥルル~♪」
マスターが、出発する前にオカリナで『地上の星』という曲を演奏し、みんなの気分を高めながら、注目を集める。初めて聞く演奏に、配下モンスター達は盛り上がり、騒がしくなる。
「みなさん静粛に!!……レンディ様から、もう一度挨拶があります」
演奏が終わると、ドッペルゲンガーであり、執事でもあるセバスチャンから、落ち着くように声が掛けられる。
「この曲は地上の星という。一人一人が今回の遠征で成長し、夜空に見える星のように……輝ける存在へと、成長してくれると嬉しい」
マスターから集まった者達へと、期待を込めた挨拶が行われる。
挨拶を聞いてやる気を出し、それぞれに声を掛け合ったり、歓声を上げている者が多い。少し恥ずかしい台詞を使った挨拶だったが……みんなの気分は、充分に高まったみたいだ。
「マスター。立派な挨拶ですね。」
「俺だって、少しは成長してるんだからな!」
マシロからそっと掛けられた言葉に、反射的に答えてしまうマスター。
「安心しなさい!この大妖精ティナちゃんにまかせておけば、心配しなくても大丈夫よ!」
「私だって、お姉ちゃんの力を見せてあげるんだから!」
「ガウッ。マスターの守護は、我にまかせてくだされ。」
他の守護者達からも、頼りになる声が掛けられる。
「ダンジョンの事は……安心して、私にまかせてくださいでありんす。」
「うん、俺達の帰る場所は、凛にまかせたよ。」
新たに守護者となったアラクネの凛は、今回はお留守番だ。
マスターが、アラクネの凜に……何やら怪しげな言葉使いを教え始めており、最近は京都の芸子さんや、遊女の言葉使いみたいに喋らせたいと、ひそかに言っているようだ。
今回の遠征メンバーは、初期に配下となった精鋭が多く、装備も充実してきている。
期間は2日を予定していて、保存食や飲み水なども各自用意してある。
【 遠征組メンバー 】
◇主要メンバー
マスター、マシロ、ライガー、セバスチャン、アリシア、ティナ、ククル
◇配下達
スライム:2
ウルフ:10
コボルト:14
ホーク:2
フォックス:2
マジカルキャット:4
アラクネ:4
ドッペルゲンガー:4
ウォーホース:8
総勢50名近くと、乗り物や荷物運びも兼ねて、ウォーホースも連れてきている。
「近場から順番に、拠点を制圧していくぞ。ゴブリンとオークは、すべて殲滅する。」
今回の作戦は、実戦経験を数多く積み、レベルアップをする為だ。
初めてゴブリンの集落を攻めた時は、心にまだ甘えがあり、相手に同情してしまった場面もあったが、今回は容赦なく、殲滅していく予定だ。
自分自身にとって何が大切かを考えた結果、ダンジョンで自ら産んだ配下達と、仲間となってくれた味方が一番大切で、他の魔獣やモンスター達に……情けをかけている余裕はないと、割り切って考える事にした。
生き物や植物には命があり、食べる時には、その命をいただく……。
それと同じように、モンスター達には、自分達にとって、成長するため、生き抜いていくための糧となってもらう。
弱肉強食の世界。
大切な味方を、守るために力を手に入れる。
足の速い斥候であるウルフ達が先行し……連絡役として、ライガーに状況を伝えてもらいながら進んでいく。
「ガウッ。マスター、そろそろ……ゴブリンの集落が見えてきますぞ。敵は20体程のようですな。」
「よし、このまま足並みを揃えて、堂々と正面から進む!逃げ出すゴブリンは、足の速いウルフ達にまかせるぞ。」
マスターの合図に従い、正面からゴブリンの集落へと進む。
ウルフ達や探索班に、森については遠征をする前から調べてもらっていた。2日間という日程の中で、効率的に近場にいるモンスターを、たおしていきたい。
ライガーが先頭を走り、素早く入り口をウロウロとしているゴブリンを倒す。他の者も遅れずに素早く入り口へと到達し、そのままの勢いで……どんどんと中へ踏み込んでいく。
「……ストーンショット!さぁ行くぞ、龍切丸!」
魔法で遠距離にいる相手に牽制を入れながら、新しく作った日本刀にゆっくりと魔力を流し、肩慣らしするかのようにゴブリンを切り捨てていく。
「予想以上の切れ味だな。実戦でも紙を切っているみたいな、見事な手応えだ。」
「わぅ。あまり無茶をしすぎないでくださいね。」
マシロに注意をされながらも、剣術をメインにゴブリンを殲滅していく。
「わんっ。私の雪月下も、素晴らしい切れ味ですね!」
マシロが持つ日本刀は、名前が表す通り、雪のような白い刀身が特徴的だ。
他にも守護者達を筆頭に、名付のネームド配下から、順番に良品の日本刀を渡している。
ライガー達ウルフ種には、試行錯誤を重ねた結果、小手と爪を併せたような……特別なギミックのある、特殊な小手装備になっている。
「ガウッ。我がブラックダイアの爪に、切り裂けぬ物などはない!」
「レン君が作ってくれた、私の流水刀だって負けてないわ……!」
「なんでこの大妖精であるティナちゃんだけ、日本刀がないの~!?」
新しい武器の切れ味を確かめながら、どんどん敵を倒していく。
普段はみんなから一歩下がり、物静かな執事であるセバスチャンには、小振りな日本刀が2本プレゼントされている。小太刀で二刀流を極めるべく、日々訓練しているようだ。
50名近い戦力相手に……あっという間に、ゴブリン達は殲滅された。
死体はウォーホースへと運ばれ、馬に乗れる8名の運搬組が、素早くダンジョン領域の中へと持ち帰り、ポイント化していく。
遠征組とダンジョンを行き来する、重要な役割だ。
前に見たゴブリン集落と同じで、木材と植物の蔓などで作った、質素な建物ばかり。家の中には毛皮が敷いてあるが、文明度は高くないようだ。
同じような調子で、休憩を挟みながらも……3つのゴブリンの集落を、無事に殲滅する事が出来た。
「自分達が成長したせいなのか、思ったよりも敵の歯応えがないなぁ~」
「ガウッ。油断してはなりませぬぞ!」
ライガーに注意され、気を引き締めなおす。
「そういえば、ひさびさにステータスも確認してみようかなぁ」
威力の上がった魔法や龍切丸で切りつけると、ゴブリンは簡単にたおせるようになってしまった。思った以上に、訓練などの日々で実力は上がっていたみたいだ。
「ダンジョンメニュー、ステータス」
☆マークは新規に能力UP、スキルUPした目印
【 種族 】魔人(王種・幼生体)ダンジョンマスター
【 名前 】レンディ
【 レベル 】☆21
【 DP 】2180
【 魔力 】☆658
【 加護 】魔眼:鑑定 ☆王の命名 魔力増幅 妖精魔法 念話
【 スキル 】☆統率4 ☆魔力操作6 ☆魔力回復5 ☆瞑想4 ☆剣術5 ☆体術5 ☆隠密2 ☆身体強化4 感知系:☆気配4☆魔力3 魔法系:☆火4水1☆土5風2☆光3闇1☆無5☆時空2
思ったより、かなりスキルも成長している。
訓練や日々の行動でも、自然とレベルやスキルが上がっていくのはありがたい。
王の命名というユニークスキルは、いつの間にか増えていた。名前からして、種族の『王種』というのが、重要な鍵になっていそうだ。
アリシアによると、普通はダンジョンモンスターに命名するには数が限られているようだが、このスキルのおかげなのか、今の所は……名付けをしてネームドモンスターを増やしても、負担にはなっていない。
名前を持つネームドになる事で得られる恩恵は、魂の覚醒とも言われており、眷属としての意思が芽生え、知能が上がりやすくなる。名付けをするかどうかで、成長率が大きく変わる、重要な要素だ。
ライガーと話しをしながら、殲滅した集落で休憩していると……次に相手をする、敵の情報が入ってくる。
「う~ん、さすがに次の相手は……今までと違って、手強そうだなぁ」
斥候からの報告を聞いた後、マスターはその情報について、改めて考えだす……。
まずは先に、野営をする為に少し移動してから、夜を過ごす簡単なキャンプ地を作る。マスターの居る場所では、主要メンバー達を集めて、次の敵を倒す作戦会議だ。
斥候達の報告を聞く限り、近場では一番の脅威となりうる敵がいる。
それは……『オーク達の大集団』
ゴブリンよりも遥かに大きな体格をしていて、その体格から繰り出される、力ある攻撃は脅威的だ。
次に向かう場所には、オークが15体程集まっている。さらに取り巻きとして、ゴブリンが40匹程いるようだ。
今まで相手にしてきた中でも、別格と言える相手だろう。腕力もそうだが、数でも互角といっていい程。
「う~ん。何かいい作戦、思いついた人いるかな~?」
「ふふっ。この大妖精であるティナちゃんに、応援はまかせておきなさい!」
「ちょっと、ティナ!真剣に考えてよ」
日も落ち始める夕暮れ。
作戦会議をしながら……夜を過ごす事となる。
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