第12話 森の奥地からの旅人

【 異世界転生 20日目 】


 いつもと変わらない日常。

 日課となっている朝の訓練を、みんなと一緒に始める。


 朝の訓練を終えて、昼食に向かうと……。

 突然、シルキーのミコトからビックリするような事を聞かされる。


「ましゅたぁ~、妖精しゃんの友達ができましゅた!」


「ん……?」


「ふふんっ、わたしこそは、あの有名な風の大妖精ティナちゃんよ!」


 家事妖精であるミコトの頭の上には、仁王立ちしながらポーズを決める、見た事のない妖精がいる。


「えっと、聞いた事ないけど?」


「わぅ。私も聞いた事ありませんね」


 思わず、条件反射的に突っ込んでしまった。


 えっ?っという感じで驚いたまま、口を開けて固まってしまった妖精を改めてよく見てみる。


 身長20センチ位、透明な羽の生えた妖精さんだ。


 首を傾げながら思い出してみる……。配下の中に、こんな妖精なんて居なかったはずだけど……?


「そんなに見つめても、ダメだからね!大妖精ティナちゃんには、もう契約者もいるんだから!」


「……?」


 意味不明な発言を聞いて、冷めた目でジッと見つめるマシロ。……マシロの視線を受けて、なぜか挙動不審になって慌てる妖精。


 とりあえずその場を落ち着かせて、ご飯を食べながら……ゆっくりティナと話しをしてみると、自称壮大な冒険談など、色んな事を聞くことができた。





 話半分に聞き流しながら、聞いた事をまとめてみると、こんな感じだ……。


【 ティナの壮大な冒険談まとめ 】


 秘密の里を出て……様々な場所を潜り抜けながら、長き時を旅をしてまわる。


 そして森の奥地にある村で、運命的な出会いをして、ついに契約者を見つける。契約者が大人になり、やがて意気投合した仲間と、一緒に壮大な冒険の旅に出る……。


 様々な大自然の脅威へと立ち向かい、時には狂暴な魔獣などの、数々の試練の中を進み、やがて……広々とした草原へとたどり着く。


 意気揚々と草原を進んでいると、突然上空から危険を感じて、上空を見てみると……ワイバーンが獲物を狙って、こちらへ飛んできている。


 そんな時、命からがら逃げきった森の先で、変わった気配と水場の雰囲気を見つける。そして、ここは大妖精である私の出番だと思って、気になって見に来たという事だった。





 近場には確かにワイバーンが住む山があり、視界が広く見渡しやすい草原に、獲物を狙いにきているという話は、配下からも聞いていた。


「んっと、その壮大な冒険をしてきた仲間っていうのは、近くにいるの?」


「ふふっ、当り前じゃない!近づきすぎると危険っていうから、こっそりと私が見に来たのよ!」


 一緒に話しを聞いているマシロは、何かを言いたげな視線を、ティナへと送っている。


 どこがこっそりなのか、小一時間くらい問い詰めてみたい。敵意もなく、同じ妖精族のミコトと楽しそうにしているから、大丈夫なのかなぁ~?


 食事も終わり、話しもひと段落した所で、改めて聞いてみる。


「とりあえず、その仲間に連絡しないと、心配してるんじゃないの?」


「そ、そうね……。わたしが居ないと、寂しくなって泣いてるかもしれないわ!あなた達なら、仲間に紹介してあげてもいいわ!」


 お調子者で陽気な妖精と仲良くなり、仲間へと紹介してもらう事になった。


 どんな人物なのか詳しく聞いてみると、エルフィードと言われる森の住人と、森の番人でもある、ウルフに似た種族みたいだ。


「エルフって、あのエルフ~~!?」


「そうよ!なかなか森から出てこない、引き籠りなんだから!」


 初めて契約してからも何十年とかかって、やっと森から出てきたらしい。まさか異世界でエルフと出会えるなんて、まさにファンタジー!これはもう会うしかない!


 興奮する気持ちを落ち着けながら……守護者であるライガーも呼び寄せて、配下達にも事情を説明する。


 護衛には、守護者であるライガーとマシロを連れていく。ティナには、先に仲間の元へと戻ってもらって、敵意はなく、話し合いがしたいと連絡してもらう。





 洞窟の入り口から外へ出て、森に入った所で待ってみる。

 ライガーが真っ先に気づいて、念話を発しながら注意を促す……。


「あのウルフ、そうとうデキる。気を付けてくだされ」


 森の奥、木の陰から出てきたのは、濃い緑色と白の毛色をしたウルフ種。さらにその後ろには、慌てた様子でティナとやりとりをしている、エルフらしき人。


 外見は光を集めたような金髪と、目は自然を感じさせる、奇麗な緑色と黒目が特徴的だ。



 ライガーが、さり気なく自分の体でマスターをかばうようにしながら、警戒しているのがわかる。思わず魔眼で鑑定したくなるのを抑えて、様子をそっと見守る。



 騒ぐようにエルフの人と話していたティナが、今度はこちらへとやってくる。


「ふふんっ。ほら、ちゃんと連れてきたわよ!このティナちゃんにまかせておけば安心よ!」


「う、うん。……そうだね?」


 緊張と興奮でドキドキしていた気持ちも、ティナの様子を見ていると、少しやわらいでくる。


 いつのまにか、この場を取り仕切るように振る舞うティナに促されて、お互いに自己紹介をする。


「さぁ、まずはあなたから自己紹介しなさい!偉大なる大妖精ティナちゃんの契約主なのよ!」


「えっと、は、はじめまして。森人のアリシアです。こっちはククルのクーちゃんです」


「ガウッ」


「よく言えたわね。ほめてあげるわ!」


 ちらちらとこちらの様子を見ながら、緊張した感じで、丁寧におじきをしながら自己紹介をされる。


 そして、なぜか契約主のアリシアを子供扱いしているティナに促され、こちらも自己紹介をする。


「俺は、この近くの洞窟を拠点に暮らしている、レンディだ。この2人は、仲間のマシロとライガーだ」


「わぅ。念話で話しをさせてもらいますね。コボルトのマシロといいます。よろしくお願いしますね」


「ガウッ。我も念話で話させてもらう。マスターの守護をしている白狼だ。よろしく頼む」


 初めて出会うエルフに、ドキドキしながらも……無難に挨拶を返す。


 自己紹介をしてから、詳しく話を聞いてみると、やっぱりティナは勝手に飛び出してきたみたいだ。仲間と話しをする様子を見ていても、本当に信頼されているのがわかる。


 ティナから事前に聞いていた通りで、ワイバーンから逃げた後は、飲み水となる水場を探していたみたいだ。水の気配を探して、こちらへとたどり着いたものの、この後はどうしようか困っていた所みたいだ。


 話してみると、性格は素直で明るい感じだ。妖精が懐いているし……信頼も出来そうな相手だ。


「よければ、うちの洞窟に泊まっていきませんか?飲み水の為の水場もありますし」


「はい。行ってみたいです!なんだが楽しそうです」


 そして、肝心の……伝えておかないといけない事を思い出して、心を落ち着けて、秘密を打ち明ける決心をする。


「あっ。大事な事なんだけど……。実は、なったばかりのダンジョンマスターなんです。危害を加えようとしたりなんて、ぜったいしません!」


「えっ、すごいです!うちの長老も、ダンジョンマスターなんですよ」


「えぇっ、ほんとにぃー!?」


 気合を入れて話してみたものの、ダンジョンマスターというのは、珍しくないんだろうか?


 時々慣れない敬語を使いながら……ティナも交えつつ、エルフのアリシアと会話を続ける。


「ぷぷっ、なんか2人の会話を聞いてるとさ~、ぎこちない新婚さんみたいね!」


「ちょっとティナー!」


「えぇっ!?」


 無邪気で裏表のないティナのおかげで、だんだんと騒がしくなっていく3人。相手に敵意がないとわかり、護衛であるククルもいつもの事とばかりに、あきれた様子だ。


 森の中での挨拶も終わり、事情も聞いた所で、本拠地である洞窟へと向かう。


「色んなモンスターも居るけど、一緒に居れば大丈夫だから、安心してね!」


「はいっ。どんなモンスターが居るか、楽しみです!」


 最初は緊張したけど、話してみるとすぐに仲良くなれて、素直で無邪気な感じもするし、ティナと気が合うのもよくわかる。


「今日は、魚もお肉もいっぱいあるから、歓迎会にしよう!」


「ひさしぶりに、お魚も食べたいです!」


 すっかり意気投合し、仲良くなったマスターとアリシア。




 突然の出会い……。

 これが、運命の転機とも言える出来事に。これから先、長い付き合いになるとは……2人はまだ思ってもいなかった。




 ファンタジー世界。

 いつかは出会ってみたいと思っていた種族のうちの一人、エルフ。


 またいつか、他にも珍しい種族に会ってみたいなぁ~。

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