第13話 アリシア先生と大改築。そして新たな戦い

【 異世界転生 30日目 】


 あっという間に、異世界へ来てから……そろそろ一ヶ月。


「アリシアが来てから、一気にダンジョン内の雰囲気も、変わってきたなぁ~」


「私、こういうの大好きなんです。楽しすぎて、張り切っちゃいました」


 今までは、ポイントを気にして……安全第一に、地味にコツコツやってきた。


 それが実際のダンジョンを経験し、知識も豊富なアリシアの意見を聞いて、一気に大改築をする事になってしまった。


 まさに、経験者は語る。


 思いつかなかったようなビックリする事や、この世界の一般常識など……教わる事がいっぱいあって、今ではみんなの先生として、色んな事を教えてくれている。


 情報の大切さを、改めて実感する事が出来た。





【 ダンジョン ビフォアアフター 】


 ☆ダンジョンを管理するマスタールームの設置、コアルームの見直し

 ☆光石を使って、光源と内装の充実

 ☆みんなが入れるお風呂、水周りの排水路、浄化用にスライム部屋の設置

 ☆ダンジョンの階層が地下3階(B3)まで拡張、異界領域の階層設置

 ☆本格的に、野生動物や野生魔獣を増やすための魔物牧場を設置

 ☆名付けをしていない、意思の薄いモンスターを使ったレベルアップ訓練場の設置

 ☆モンスターごとの特性にあった、居住区の整理


 勢いに負けて作ってしまった、通称キャットハウスもある。


 少しずつにじり寄って来ながら……いかに猫ちゃんが素晴らしいかを力説するアリシアと、可愛い仕草で甘えてくるマジカルキャットには、首を縦に振るしか選択肢がなかった。


 気が付けば、アリシアがよく行く休憩場所であり、すぐ隣に寝室まで作っていた。




【 簡易版 最近の出来事 その他 】


 ☆ダンジョンコアがDランクへとUP

 ☆森の中に、海へと水路の続く新拠点を建設中

 ☆種族進化したスケルトンの登場、配下にスケルトン種が大幅に増えて、100匹を突破

 ☆天敵ワイバーン対策の作戦開始


 コアのランクアップのおかげで、守護者の数や召喚相手が増えたが、食糧問題もあり……慎重になっている。これ以上は、自給自足率が増えるごとに、配下を随時増やしていく予定だ。


 森の新拠点は、ある程度の整地と外堀を作り、地下をメインに居住区などが増えていっている。地上部分は、天敵であるワイバーンを倒してからという予定だ。


 最後に、ワイバーンについては作戦を色々と考えてあるが、基本的には短期決戦の正攻法ではなく、長期戦を想定した戦いになってくると思われる。





 最近では、謎の使命感に燃えるアリシアに、膝の上に抱えられたり、着せ替え人形にされたりと、ぬいぐるみのように扱われている。


 からかい半分に、『お姉ちゃん』と呼んでみた結果、まさかこんな事になるとは。


「さぁ、レン君はちゃんと勉強しましょうね~」


「えっと、ひざの上に座る必要はないだろ?」


「何言ってるの!私は……可愛い弟がほしかったんだから!」


 何故か弟扱いされて、まるでペットにされた気分になってくる……解せぬ!!


 この世界であった過去の歴史を、物語も交えて暗記するように覚えていく。さらに、一般的に使われている生活道具など、文明に関する事も教わっていく。




「う~ん……やってみたい事はいっぱいあるのに、色んな物が足りないなぁ~」


 メモ書きのように、やってみたいリストを作ってみたけど、まだまだ先は長そうだ。


 作ってみたい様々な装備や便利品、拠点のさらなる拡張計画、娯楽品などなど。種類は乱雑に、思いついては書き残してみたといった感じで、色んな事が書いてある。




「そういえば、レン君のこれって色々書いてあるけど、この空飛ぶ船は聞いた事あるなぁ~」


「えっ……。もうすでにあるの?」


「古代遺跡から発掘されたとかで、魔道具を使って飛ぶ船っていうのがあったはずよ」


 むむっ、魔道具の文明があるとは知っていたけど……。


 知識の本に書いてあった魔道具っていうのは、まさかそこまで?今はまだ、魔石の使い方にさえ困っているのに、先は長いなぁ~。


「私も詳しくないんだけど、魔人の支配する大陸に、魔道具文明の栄えてる所はあったはずよ」


「魔人の土地かぁ~。たしか……海を越えた先にあるんだっけ?」


「ん~っと……。今はほとんど交流がなくなったみたいだから、行ってみるのは大変ね」


「そっか~。俺も魔人族なのになぁ。」


 世界の情勢を聞いてみると、中央大陸には人族が多く、他の種族は少数派みたいだ。


 魔人族は特殊な刺青を入れる文化があったり、外見的に特徴的な者も多く、迫害の対象になったり恐れられたりした事もあって、中央大陸にはほとんどいないみたい。


「いつか……。魔人族に、会える事あるかなぁ~?」


「まかせなさいっ。大人になったら、お姉ちゃんが連れて行ってあげるわ!」


 同じ種族である魔人族として、どんな人達なのか話してみたい。謎の使命感に燃えるアリシアは気になるけど、本当に出会えたらいいなぁ~。




 アリシアと2人で勉強していると、慌ただしく突然の知らせが入る。


 興奮した様子で駆け込んできたのは、守護者であるライガーだ。


「ガウッ。マスター、実験として用意していた作戦、始まりましたぞ!!」


「えっ、ほんとに来たの!?」


「ガウッ。小柄のワイバーンが1体、見事に引っ掛かりましたぞ」


「やったわね!すぐに現場に行きましょう!」


 慌ただしく作戦場所である洞窟へと向かう……。





 正攻法でたおすのは難しい、ワイバーン。

 悩んだあげくに立てた作戦は……おびき寄せてハメちゃおう、トラップ大作戦。


 シンプルに、こちらが有利になるポイントで、餌とおとりを使っておびき寄せる。


 餌として使用したのは、マッドボアの丸焼きだ。ワイバーンの活動時間に合わせて、匂いによっておびき寄せる作戦。


 新たに作った大きな入り口は、先に進めば進むほど……段々とせまくなっていく、出口の無い洞窟になっている。


 入ってきた獲物を逃がさないように、入り口を封鎖する工夫もしてあって、逃げ場の少ない奥へと誘導した所で、特別に調合した薬を使って動きを鈍らせ、頭上から降り注ぐ土石流で生き埋めにするのだ。


 ダンジョンとしての機能も使った、容赦のないトラップ。


 安全対策として、おとり役が逃げ込みやすい通路を作ったり、決め手となる餌の用意や止めとなる罠の用意、作戦に向けて演習を何度も繰り返したりした。


 大変な事は多かったけど、上手く罠に食いついてくれてよかった。


 予想の出来ない不測の事態に備えて、色々と準備したり覚悟はしていたけど……まずは、成功の第一歩かな。





 段取り8分なんて言葉もある。

 実際に戦うよりも……事前の準備が、本当に大変だ。


 上手くいくかどうかは、事前の準備で8割方決まっているというような意味で、昔から戦争や仕事の手順としてなど、様々な場面で使われていた言葉だ。


「まだまだこれは、様子見の一手。本当の戦いは……まだまだ続くぞ!」


「ガウッ。気を引き締めねばいけませぬな」


「ワイバーンも飛べなくなれば、ただの大きなリザードよ!」


 ライガーから報告を聞きながら、急いで現場へと到着する。





 例え、誰かに卑怯だと思われたとしても……。

 ダンジョンマスターとしての、使える力はフルに使って戦っていきたい。


 弱者がどうやって、強敵であるワイバーンをたおしていくか。

 ダンジョンマスターと、ワイバーンの知恵比べは、まだ始まったばかりだ。


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