第14話 激突ワイバーン


 ワイバーンを誘い込む為に作った、洞窟へと到着する。


「グルゥアーー!」


 エサの匂いに釣られたワイバーンが、ドスンと音を立てながら入り口から飛び込んでくる。吼え声の様子から、興奮しているのかと思えば……警戒しながら、辺りをキョロキョロと見回し、ゆっくり進んでくる。


 用意した洞窟の罠と施設は、侵入者にとっては地獄への入り口だ。将棋で言えば、詰将棋のように……1歩進むごとに、徐々に退路を無くしていき、出口の無い奥へと誘っていく。


「ダンジョンメニュー、マップ表示」


 ダンジョンに新しく追加された、『マップ表示』でワイバーンの位置を確認する。このマップ表示は、支配している領域内のダンジョンに対して、敵対・中立・味方の3種類で、色分け表示する事が出来る。


 作戦の為に待機している最終ポイントへと移動する。この場所では、コボルトやゴーレムなどを指揮している、守護者のマシロも待機している。


 みんなが息を潜めて、今か今かと作戦の指示を待っている。


 そんな時……。

 出入口を封鎖する音が地震のように響き、ワイバーンの誘導作戦が開始される。


「ケムリと匂い玉、ちゃんと効くといいなぁ~」


 コボルト用の通路や所々に開いている穴から、追い立てる為の嫌がらせ攻撃が始まる。燃えやすくした植物や薪を燃やし、特別に調合した薬を混ぜた物を直接投げつける。


 攻撃をくらえば1発で死んでしまうコボルト達。遠距離から攻撃しては、すぐに穴や通路へと、素早く逃げだしていく。


 暴れるワイバーンを相手に、ケムリや魔物の嫌がる薬なども使って、必死に奥へと追い立てていく……。


「みんなが必死に戦っているのに、マップを見ているだけなんてなぁ」


「ガウッ。マスターは何があっても、冷静さを失わず、どっしり構えていてくだされば充分ですぞ」


「わかってるけど、どうしても体がうずくんだ」


 守護者であるライガーに、落ち着くように諭されながら、今か今か……と、最後のトドメの時を待つ。


「む~~。まだかなぁ~」


 こらえきれなくて、その場をウロウロしだすマスター。


 時間にしては、僅か15分程。

 それでも体感としては、かなりの長い時間を我慢している……そして、ついにその時が来る。


 2度目の、地震のような轟音。

 奥の部屋にある出入口が、封鎖された音だ。


「よし。土よ、龍の姿となって、敵に襲い掛かれっ。……土石龍!!」


 マスターが地面に両手を付き、魔力を堤防となっている場所へと放ちながら、土属性の魔法を発動する。


 ダムの堤防のように、砂や丸石、丸太などを押しとどめていた要となる場所。それが土の龍へと徐々に形状変化し……ワイバーンに向かって、襲い掛かる。


 堤防を失い、一気に流れ出した大量の岩や丸太なども、上から押しつぶす勢いで降り注いでいく。


「グルゥアーーーー!!」


 咆哮しながら大暴れして、抵抗するワイバーン。次々に襲い掛かる物理的な罠と、魔法の龍によって、動きが鈍っていき……傷付きながら、生き埋めにされてしまう。


 土の中に埋もれ、だんだんとワイバーンが静かになっていく。マスターは安全な場所から様子を見ながら、マップの反応が消えるのを待つ。





「きゅいっ」


 サポート召喚獣の声と共に、大暴れしていたワイバーンが静かに息を引き取る。


「よし、ワイバーンを倒したぞ!!」


「わんっ。」「「「わぅー!!」」」


「お見事ですぞ」


 緊張感から解放され、遠吠えのように歓声を上げるコボルト達。


 今回の主役は彼らコボルト達だ。

 主要メンバー達と考えた作戦を、実行に移す為の準備、実戦に向けての訓練と本番。


 訓練一つを見ても、手信号を使いながらの、隠密行動や様々な動き方など。まるでやってる事は、忍者を育てているような、そんな感覚だった。


「マシロ、大変だっただろうけど、よくやってくれた!」


「わんっ。これでマスターの夢に向かって、また一歩進みましたね」


 マシロには以前、語った事がある。


 ワイバーンを倒したその後には、本拠地になっている洞窟から出て……。日の当たる地上に、コボルト達や配下が暮らす、街を作りたいと。


 近くにワイバーンが居る事で、上空に怯えて森や洞窟でしか活動する事が出来なかった。


 でもいつかは……。

 上空の天敵に怯えずに、みんなが暮らしていける場所を、作っていきたい。


 まだワイバーンを倒した数は、1匹。始まりの1匹にしかすぎない……。


 近場には、まだ3匹のワイバーンが居座っている。まだまだ油断できない状態であるのは変わらない。


 でも、それでも……。

 なんとか天敵をたおして、みんなが楽しく暮らせる場所を作りたい。




「今日は、たおしたワイバーンを、みんなで食べちゃうぞ!」


「わんっ。また宴会ですね!」


「やったー!私もあのリザードもどきを食べたかったの」


 さっそく、大部屋に大量に降り注いだ土石や丸太などを、慎重に撤去していく。


 ワイバーンはアリシアに教えてもらいながら、素材となる部位と、食べられる肉などを分けていく。いらない部分はダンジョンへと吸収したり、スライムへと与えたりしてみる。


「さすがはワイバーン。立派な魔石だな」


「魔石と言えば魔道具ね!そこまで詳しくないけど、簡単な物なら教えてあげる」


 苦労して手に入れた、貴重な魔石。すぐには使い道は思いつかないけど、何かに使ってみたいなぁ~。


 手に入った素材を見つめながら思案する……。何に使おうか考えていると、あっという間に時間が経っていく。





「さぁマスター。もう少しで準備ができますよ」


 マシロに促されて、大昼間に向かう。


 最初に比べれば、かなり大きくなった大広間。泉の近くには、椅子やテーブル、薪もたくさん用意してある。


「今日の宴会は、特別なお肉だ!みんな一緒に、いっぱい楽しもう!」


 いつの間にか作られていた、マスター用の台座に立ち上がって、みんなに宴会開始の声をかける。


 見渡してみると……最初に比べれば、かなり数の増えた配下達。コボルト達を主力に、ウルフやスライム、恐竜のような生き物まで様々だ。


 みんなの顔を見回しながら、改めて思う。この洞窟から出て、外に立派な街を作りたい。





 みんなが宴会を楽しむ中、コボルトとエルフが争っている場所がある。


「ちょっとマシロ!私が食べさせるの!」


「わんっ。アリシアは一緒に座ってるんだから、我慢してください!」


「自分で食べたいんだけど……」


「「はいっ、あ~ん」」


 マシロとアリシアが張り合う様に、マスターの世話をしたがっている。


「これじゃ、ダンジョンマスターとしての威厳がなくなるじゃん!!」


 などと、心の中で叫んだとか、叫ばないとか……。

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