第33話 草原遠征と、サバイバル訓練③

 慌ただしく、急ピッチで建設されていく、新たな拠点。


 やっと基礎工事と、外側にある塔建設が、ある程度の目途がたつ……。城作りに慣れてきた、コボルト達に後は任せて、マスターは近場にある川の調査だ。


 2つの拠点の間には、崖となっている場所の下に、川が流れている。


 川幅は50メートル程。北側にある山から流れてきた川水と、きれいな湖の水が流れてきた川だ。


「うわぁ、この崖、結構たかいなぁ~」


「わぅ。落ちないように注意してくださいね」


「レン様。手をつなぎましょう。もし落ちても、空を飛べる私が居れば安心ですよ」


 マスターの護衛として一緒に行動しているのは、マシロとセレネだ。


 セレネとは、最近はなかなかタイミングが合わなくて、一緒に行動できなかった。そのせいなのか、今日はやけに積極的だ。こっそりとマシロの様子を伺うと……女同士の戦いとも言える、見えない火花が散っているような気がする。


 最近は学んだんだ。


 下手に深入りすると……もっと戦いは激しくなる。そっと、気が付かないフリをしておこう。


「貴重な水場だし、往復するのが楽になるように、階段でも作りたいなぁ」


「コボルト達と強力すれば、簡単に作れそうですね」


「レン様が川に行く時は、声をかけてくださいね。私なら、ひとっとびです」


 マスターが周りの地形を確認しながら……崖の北側から川へと向かうルートを発見し、さっそく川へと降りる事となる。


「セレネ、このあたりの水辺で危険なのは、巨大なナマズがいるんだよね?」


「はい。アリシアお姉さまから聞いたのは、体長10メートルにまで成長する巨大ナマズがいて、湖や川にいるみたいです。成長した個体は、雷の魔法も使う危険な相手です」


 マスターからの質問に答えるセレネ。


 最近は、アリシアから水中生物についても、色々と聞いているみたいだ。気が付けば、アリシアの事をいつの間にか、お姉様と呼ぶ程に仲良くなっている。


 さすがに、水の中で雷魔法を使う相手とは、正直戦いたくない。刺激しなければ大丈夫みたいだが、無理はしないほうがいいだろう。





 水辺の近くをある程度見回ってみると、嬉しい発見があった。


 それは……刃物を研いだりするための『天然砥石』だ。上流のどこかから、流れてきたのかな?どこかで、砥石がとれるポイントがありそうで嬉しい。


 日本刀だけではなく、刃物全般というのは使えば使うほどに、切れ味が鈍っていく。そこで大切になってくるのが、この『天然砥石』


 砥石と一言に言っても、種類が豊富にあり……。


 大きく分けると、荒砥石・中砥石・仕上砥石の3種類がある。荒砥石は、欠けた刃などを修理する為で、手作りコンクリートを作って、代用品とする事も出来るが、あくまで代用品だ。


 刃物をちゃんと切れ味の良い状態に保つためにも、刃物にあった砥石を探したい。


 このあたりで見つかったのは、白っぽい色をした仕上げ砥石。石の色によっても大まかにわかるが、あくまで目安程度で、実際に試してみないとわかりづらい。


「こんな所で砥石が見つかるなんて、運が良いなぁ~」


「わぅ。こんな所にあったんですね」


「この白い石が貴重な物なら、上流の方も調査してみますね」


 川原の石を、嬉しそうな表情で拾い始めるマスター。


 魔物との戦闘だけではなく、道具を作るための彫刻刀や生活用品のハサミなど、これからも刃物を使う場面は多い。生活を豊かにするためにも、砥石の産地が見つかると嬉しいなぁ。




「よし、このあたりに魚捕りの罠を仕掛けるぞ!」


「わぅ。本当にこれで大丈夫なんでしょうか?」


「これは、アリシアお姉様が言っていたやつね」


 マスターが楽しそうに川に設置しているのは、水中で使えるサバイバル技術として教わった、魚捕りの猟に使う罠。竹を編んで作った、シンプルな筒状の物だ。


 川に沈めておくだけで……魚だけじゃなく、カニやウナギといった生き物も取れるかもしれない。流木などを利用し、通り道になる場所を作って、そこに罠をしかける……後は待つだけという簡単さだ。


 罠をしかけていると、うずうずとした様子で、セレネが近寄ってくる。


「レン様、このままでは……海の守護者の名が泣きます。きれいな水ですし、潜って調査してきますね!」


「わかった。危険そうな生き物には注意して、無茶をしないようにね」


「はい。まかせてください!」


 マスターの許可をもらって、嬉しそうに川へ飛び込むセレネ。


 セレネの体が光りだすと、鳥の亜人のような姿から……羽が鱗のような模様に変わっていき、人魚の姿へと形態変化する。まるで空を飛ぶ鳥のように、水の中を自由自在に動き回る美しい姿は、さすがは海の守護者と言われる存在だ。


「さすがだなぁ。川の流れを利用しながら、水魔法も使ってるのかな」


「わぅ。これからは、コボルト達にも水場での訓練を増やします!」


 女同士として、マシロも何かを感じるものがあったのか、さらに訓練メニューが増える事になるコボルト達……。





 セレネが川の中を泳ぎまわり、調査を開始すると……マスター達も、流れが緩やかな水深の浅い方面へと向かう。


「魚!魚がいるっ!こっちはこの場所で……槍を使って、魚とりするぞ!」


「わぅ。ここなら安全そうですね」


 気合充分といった様子で、着ている服を脱いで、槍を構えるマスター。


 水の深さは、1メートル程だろうか。知識としては学んだ事もあるサバイバル技術を、今まさに実戦で試してみる時だ。


 槍を使って、岸辺の魚を捕る時の注意は……。


 必ず槍先から水場に着水して、標的となる獲物を狙う事。槍をしっかりと構えてから、水泳選手の飛び込みのように、頭から水へと飛び込み、魚をそのまま串刺しにする方法だ。


「よし、取ったぞー!!」


「わぅ。お見事ですね」


 マスターが、勢いよく飛び込んで貫いた魚は、アロワナに似ている淡水魚。


 夢中になって獲物を狙って、5匹だけだが手に入れる事が出来た。そろそろお昼ご飯……焼いて食べるのが楽しみだ。





 昼食に、手に入れた白身のお魚を焼いて、美味しく食べていると……。周辺の調査をしていた、ライガーから念話が入る。


「ガウッ。マスター、南東に徒歩1日程、向かった先の森に……危険なオーガと、トロールを発見しました」


「オーガとトロールかぁ。調査は無理せずに、戻ってきていいぞ」


 ライガーからの報告を聞き、どうするべきか悩むマスター。


 南東の森までは距離がある。人間の街へと向かうルートは南西で、今すぐに倒さないといけない相手、というわけではない。それでも……いつかは戦う事になりそうな相手だ。いざという時の準備は、必要になってくるだろう。


 まずは、この平原エリアの拠点を、ちゃんと完成させてから。


 その後に、離島に向かうか、森の魔物を相手にするか、状況次第で決めればいいかなぁ~。


「う~ん、どうしようかなぁ~」


「わぅ。何かあったんですか?」


 マシロとセレネにも、新たな敵の事を伝える。


「わぅ。みんな成長しています。相手が例えオーガとトロールでも負けません!」


「レン様、ご安心ください。私も成長しています。魔法で蹴散らしてやります!」


 心強い守護者達の言葉に励まされて、ほっと一安心する。


「成長かぁ~。俺だって成長して、身長も伸びてきたんだからな!」


 なんとも言えない、微妙な空気感が漂う……。


 スベってない。スベってないよきっと!!

 どうせスベルなら、川の上を滑りたい。


「わぅ。マスターは、日々立派になってきてますよ」


 マシロの、さりげないフォローはさすが……。


 異世界にきてから、102日。

 伸びた身長は……マスターの自己申告によると、わずかに8ミリ位。


 人間と違って、長命といわれる魔人。


 立派な大人に成長するまで、どのくらいかかるのだろうか……?

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