第32話 草原遠征と、サバイバル訓練②

 大部隊は、無事に草原エリアへと突入した。


 倒した大型魔獣の解体を終えた後は、軽く休憩時間をとり、また目的地へと移動が始まる……。


 移動ルートは、草原を南へと下り、湖の西側を抜けて、小高い丘へと向かう。先行偵察として、上空からドラゴンのソラと、セイレーンのセレネも警戒と安全確保をしてくれている。


 草原を進み始めた頃、離れた位置にある湖からは……ソラの鳴き声と、水柱が上がる姿が何度も目撃される。


「ソラ、何かあったの?」


「キュ……?おっきい、トカゲ、あそんでる~」


 ソラからは楽しそうな雰囲気が伝わってくるけど、大丈夫なんだろうか。


「セレネ、ソラは大丈夫?」


「はい、レン様。あのトカゲ程度なら問題ないと思います」


 最近はいつのまにか、呼び方がレン様に変わっていた。ティナから何か入れ知恵されたみたいだが、大丈夫なんだろうか?


 セレネに湖の事を、詳しく聞いてみると……トカゲは2メートル程の大きさがあるが、威力の弱い水鉄砲のような攻撃と、強力そうな噛みつき攻撃に注意すればよく、水の中に潜らない限りは安全みたいだ。


 湖に居るのは、ライガーが戦ったバッファロータイプの魔獣の他にも、近場に生息しているシカのような生き物・リザード種・巨大ナマズ・ウルフとは違う、小型で犬型の生き物が確認されている。


「ソラ、空中で遊ぶのはいいけど、水の中には潜らないようにな!」


「キュ。みず、もぐらない~」


 セレネにソラの事をまかせているけど、好奇心が強く、目を離すと色んな場所にふらふらと行ってしまったり、魔獣にちょっかいをかけたりもしている。そんな様子をみかねて、時々セレネに注意されたり、叱られたりする事もあるみたいだ。


 まるで、セレネが母親でソラが子供。みたいな関係になっている。





 草原エリアの動物や魔獣を避けて、そのまま一直線に小高い丘へと突き進む。


 ヒザあたりまでの長い草が、草原には生い茂っている。ヘビなどの草に潜んでいる、小型の危険生物が居ないか、充分に注意が必要だ。


 草食動物にとっては、この草地と湖もあり、危険な敵さえ居なければ快適だろう。


 少し前までは、ワイバーンが毎日のように行き来していた。それでもいまだに、多くの食べ物となる生き物が居る。ここに雨風が防げる頑丈な拠点さえあれば、これからは人間も充分生活していけそうだ。





 そろそろ、丘に到着する頃合い。


「ソラ、セレネ。洞窟の前にある荷物を、空中部隊で空から運んできてくれ」


「キュ。わかった、もってくる~」


「はい、レン様。おまかせください」


 予定通りの行軍。ソラとセレネに、念話を使って新たな指示を出すマスター。


 小高い丘へと到着し、建設するための資材を、本格的に運び込んでもらう。竹や木材を使った、大きな四角いカゴに荷物を詰め込み、それをそのまま掴んで空から運ぶのだ。


 資材だけでなく、いざとなれば人や配下モンスターを運ぶ事も出来る。ドラゴンやワイバーンによる、空の便だ。


「よし、まずは丘の頂上で、土台となる基礎工事からだな」


「わぅ。また街作りと同じ要領ですね」


 マスターは拳を握りしめながら、気合充分といった感じだ。


 すでに3度目となる、似たような作業だ。総勢50名程の配下モンスターと一緒になって、慣れた感じで作業を進めていく。


「今回は、以前に森の中に作ったデルモンテ風のお城を小さくして、中に100人が住める位の広さにするぞ。」


「わぅ。拠点にするなら充分ですね」


 小さな模型を作り出し、配下達に見本を見せながら、率先して魔法を使って作業をするマスター。


 持ち込まれた資材を使って、急ピッチで作業を進めていく。この分なら……3日あれば、ある程度充分な形までは完成しそうだ。草原エリアに、突然こんなお城が出来上がれば……見かけた人は、ビックリするだろうなぁ。





「ふぅ~。前に比べれば、かなり楽になったなぁ~」


「わぅ。コボルト達も成長してますし、ちゃんとレンガや石材を準備したかいもありましたね」


 感慨深げに、コボルト達を見回すマスター。


 森で作った前回は、ほとんどがマスターが作っていたお城。


 それが、今では……作り方を覚えたコボルトが多数居て、率先して動いてくれている。今後は、マスターが居なくても、コボルト達にお城作りをまかせる事が出来る。色々な事が出来ると言っても、マスターの体は、たった一つしかない。こういった専門的な知識を持った、優秀な人材が育ってきてくれるのは……本当に嬉しい事だ。


「コボルト達も、どんどん立派になっていくなぁ~」


「わぅ。マスターと一緒に、経験したおかげですね」


 成長していく配下の姿をみて、密かに喜ぶマスター。


 今はまだ、中世ヨーロッパレベルにすら届いてない、低い文明度。これからさらに、少しずつでも発展させていきたい。





 あっという間に、太陽が傾き、日が沈んでいく。


「そういえば、マスター。凜から届け物がありますよ」


「ん……?なんだろう」


 マシロに言われて、木箱に入った届け物というのを開けてみる。


 なんと、そこには……マスターと凜が、共同で試しに作っていた物の、完成品があった。


「ついに、完成したのか!」


「わぅ。凜からの伝言で、サプライズプレゼントみたいです」


 中身を見たと思ったら、突然ビックリした様子で、大喜びしはじめるマスター。


 そこにあったのは……。日本人なら誰もが知る『和弓』という遠距離武器だ。


 ドライアドが厳選した竹と木材を使った複合弓。弦となる部分には、魔獣の筋やアラクネの糸が使われている。



【 名称 】和弓・風切

【 品質 】ランクA

特別な製法で作られた弦と、特殊な木材と竹を組み併せて作った本体部分からなる、強力な複合弓。



 職人として、めきめきと実力をつけている凜。


 試作で作った物とは、もはや完全に別物。思わず見惚れてしまう程の、素晴らしい出来栄えだ。


「凛。すごい弓を、ありがとう!」


「はい。レン様に喜んでいただけたようで、嬉しいでありんす」


 念話を使って、凜に心からのお礼を言うマスター。


 この和弓が量産出来るようになれば、遠距離攻撃が気軽に行えるようになる……普通の素材ではなく、異世界産の特殊な素材を使った事で、さらに威力は上がっていそうだなぁ。


「マシロ、ちょっと試し打ちしてくる……!」


「わぅ。もうすぐ夕飯なので、すぐに戻ってきてくださいね」


 さっそくとばかりに、試し打ちへと飛び出して行くマスター。


 300メートル飛ばす事も出来るという和弓。異世界では……いったいどれ位の距離を、飛ばす事が出来るのだろうか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る