第31話 草原遠征と、サバイバル訓練①
【 異世界転生 100日目 】
記念すべき、100日目の異世界。……あっという間だった。
数字だけを見ると、長いように感じてしまう。
それでも……。目の前にある、無数のやるべき事をこなしているだけで、時間が足りない程に、日々が早く過ぎていく。
【 最近の出来事 】
調査のために、遠征へと出発したセバスチャン達は、そろそろ一ヶ月と少し。
増援として送った人員と共に、現在は10名のドッペル組と、付き従う魔獣と騎獣が15匹いる。
街では家を購入し、ハンターとして活動しながら拠点候補地の調査と、活動資金を稼いでもらっている。用意した武具類と、エルフ特製の魔力回復薬は、高値で取引されているようだ。
他に重要な事は、90日目にダンジョンコアの管理者から通知がきて、ダンジョンメニューの中にある商品カタログが、バージョンアップされた事だ。
今までは生きるために最低限。という品揃えの商品リストしか無かったけど、ダンジョンマスターが運営する商品カタログを『閲覧と販売する権利』が与えられた。
取引をするには、ダンジョンコアを経由して、商品を登録したり購入する。
商品には簡易鑑定が表示され、商品に対する値段設定・販売期間・入札形式を選択でき、説明文を追加で記入できるような仕組みだ。まるで地球のネットオークションのような方法と言えばわかりやすいだろう。
出品できる数はランクによって限られていて、現在は最大で5品しか出品が出来なかった。
購入しなくても、知識として色々な情報源にもなる……。
現在出品中のダンジョンマスターの数が、10名は登録されている。登録せずに、購入だけをする人もいるんだろうか?
何千年という歴史の割には、意外と多いのか少ないのか、判断に困る所だが……売っている商品は人それぞれで、どこかの国に所属していそうな者から、珍しい希少な物を多数そろえている者など様々だ。
うちが販売を開始した物は、様子見として武具類から、日本刀の品質Bランクを数点置いている。値段設定などは、購入する人が居るかどうかを、見極めながら決めていく予定だ。
◇
本拠地であるダンジョンの洞窟前。
慌ただしく配下モンスター達が動き回り、遠征に必要な物資がどんどんと積まれていく。
「準備は順調みたいだな」
「わぅ。荷物の用意はもうすぐで終わりますね」
準備の様子を、マシロと共に見回るマスター。
今回は、合計50名以上が草原エリアと向かって移動する事になる。すでに、地上の先遣部隊として……ライガーを筆頭とした、ウルフ達などの足の速い部隊が出発していて、移動ルート上に危険な生き物や魔獣が居ないか、道中の確認もしている。
地上部隊だけではなく、空中部隊も偵察として大活躍だ。
セレネとソラを筆頭にした空中部隊は、広範囲にわたって危険な生き物がいるかどうかを確認し、さらに草原地域の地図も作ってもらっている。大雑把な物だが、地形の情報が書かれた地図が出来た事で、どの場所に拠点を作るかも決めてある。
中央には大きな湖があり、その南西側には小高い丘が2つある。その丘側に、一つ目の拠点。そして、湖を北と南に横断するように流れる川を挟んだ向かい岸にある、東側の陸地が、二つ目の拠点予定地だ。
現地を確認してからになるが、その2つの場所に、新たに拠点を作り、余裕が出来れば吊り橋の建設も予定してある。
まずは、大部隊で森を移動しながらのルート作り。用意した剣鉈で、草木や植物を切り開き、草原地帯までの道を作る。
森の中には……魔獣以外にも、危険な生き物が多数いる。注意が必要だ。
エルフであるアリシアから、森の中で生きていくためのサバイバル技術を教えてもらっている。実戦経験の少ない者もいる中で、良い訓練と実戦になるだろう。
「わんっ!準備ができた者から、部隊ごとに集合!」
マシロが配下モンスター達を指揮して、出発準備を終える。
いよいよ……拠点建築へと向かう、サバイバルの開始だ。
「道中には、危険な毒ヘビ、サソリ、クモなどもいる。常に周囲への警戒を忘れず、仲間同士で助け合う事を忘れないように。では……出発するぞ!!」
ダンジョンマスターであるレンディが、改めて危険性の注意をし、いよいよ出発だ。
森の中では時折、アリシアに色々な事を教わる事ができた。
急に竹のような木を、音を確認しながら叩き始めたと思えば、鈍い音がする部分に穴を開けると、不思議な事に……竹の中から、水が出てきたりした。
「ふふっ、この木は水を貯める事が出来るの。叩いた時の音でわかるし、生活していくのに貴重な水を手に入れる事が出来るのよ」
「へぇ~、この竹みたいな木に、そんな特性があったんだ」
「レン君には、森で生き抜いていく知識を、お姉ちゃんがしっかり教えてあげるわ!」
森の賢者や女神とも言われるエルフに、森の事を教えてもらう。
うる覚えの前世のサバイバル知識しかなかった自分にとっては、本物の異世界サバイバル知識は本当にありがたい。
「レン君~。お姉ちゃんが、おやつとってきてあげたわよ!」
「うわっ、へびぃぃい~?」
「危険な毒を持った頭を落とせば、食べると美味しいよ~」
突然ヘビを首に巻き付けて現れるアリシア。
その姿に思わずビックリして、声を上げてしまったマスター。
ゲテモノ料理に出てくるような、カエルやヘビなどの生き物……。前世でも食べている人を見た事はあるが、異世界サバイバルでも、貴重な食料として普通に食べられているみたいだ。
さすがに生では食べないようで、魔法を使わずに、現地の物だけで火を起こす方法も教えてもらう。
「この木と、この木の枝が良さそうね」
前世でもやった事のある、火きり棒と、火きり板を使った火起こし。
木の樹皮を剥がして、繊維で弓のような物を作り、火きり棒を回転させて摩擦によって、火種を作る。時間にして20分程はかかったけど、無事に火起こしをする事が出来た。
最初に成功した後は……火きり板に、摩擦力を上げる砂のような粉を混ぜたやり方なども教えてもらい、簡単なやり方も教わる事が出来た。
「これなら、火魔法が使えなくても、大丈夫そうだなぁ~」
「簡単な道具と、やり方さえわかれば、魔法がなくても大丈夫よ」
アリシアに新しい事を教えてもらいながら、それを楽しそうに試していくマスター。
休憩がてらに、アリシアと共におやつの調理と簡単な食事をして、目的地となる場所へと進んでいく。
「わんっ。マスター、負傷者が出たみたいです」
コボルトがマシロに駆け寄ってきて、マスターに連絡が届く。
森の中で、ヘビに噛まれて毒を受けた者がいるみたいだ。各自に毒消しとなる薬は持たせているが、マスターの回復魔法は強力だ。
「神聖なる光の祝福よ、清き癒しの光にて、その身を蝕む毒を浄化したまえ。キュア!」
「わぅ」
マスターの回復魔法によって、コボルトの毒が浄化される。
ヘビに噛まれた者は、まだまだ新人のコボルトだ。経験豊かな者でも、時には噛まれる事もある。危険な森の中では気が抜けない。
交代交代で先頭部隊が入れ替わり、あっという間に道は切り開かれていく。
もう少しで草原といった所で、突然ライガーから念話で連絡が入る。
「ガウッ。マスター、野生のウルフ達が魔獣に追われて、逃げてくるようですぞ。どうしますか?」
「う~ん……。敵対しないのなら保護しても良い。同族のライガーに、判断はまかせるぞ」
「ガウッ。我におまかせください」
ライガーに判断はまかせたものの、様子が気になってしまう。少しずつ、自然と歩くペースが上がっていく。
弱肉強食の草原エリア。
さらなる警戒状態へと移行し、注意を向けてみると……。森の手前の草原では、10匹程の野生のウルフが、3匹程のバッファローに似た大型の魔獣に、追われて逃げている。
「ガウッ。マスター、草原の魔獣は我らにおまかせくだされ」
「わかった。まかせたぞ!」
ライガーも追われているウルフが気になっている様子。マスターの声を聞くと同時に飛び出して行く。
大型魔獣だが数は少ない。ライガー達ならいけそうだが、鑑定で確認してみる。
(魔眼、鑑定!)
【 種族 】バルファード
【 名前 】
【 レベル 】21
【 魔力 】208
【 加護 】筋力増幅
【 スキル 】魔力操作3 体術4 隠密2 身体強化4 感知系:気配3魔力1 魔法系:土2無4
外見は大型だが、そこまで強力な魔獣ではなさそうだ。
森から勢いよく飛び出してきたライガーから、力強い咆哮が響く。
「ガルゥウウーー!」
守護者であるライガーに率いられた、進化したウルフ達が総勢10匹と、新たに眷属となったビッグタイガー8匹が、バッファロー型の大型魔獣に、突如として襲い掛かる。
「ブルゥモォーー!」
興奮している様子の大型魔獣。
ライガー達は、魔力によって身体強化された力を活かし、連携しながら……縦横無尽に動き回る!正面に回った者は、敵の注意を引きながら、回避に徹する。そして、無防備になった左右や背後からは、隙を伺いながら、激しく襲い掛かっていく。見事な連携だ。
合金製の特別な爪で切り裂くライガーとは違い、ビッグタイガーは……強靭なアゴと牙を使った噛みつき攻撃で、相手を傷付け消耗させていく。集団で乗りかかるようにして押し倒したり、トドメに喉元に噛みつき、呼吸する気道を塞いだりする姿は、まさに圧巻だ。
正直に言おう。猛獣ちょっと怖い……仲間で良かった!
ライガー達が戦う姿を、離れた所で見ていた野生のウルフ達。
大型魔獣を倒した後は、ライガーが近寄っていき……念話を使って、野生のウルフのボスと会話をしたみたいだ。
「ガウッ、マスター、ウルフ達は敵対する意思はないようですぞ。こちらに加わりたいようです」
「わかった。これから本隊を連れて、そちらに向かうぞ」
本隊が無事に草原へと到着し、たおした大型魔獣の解体と魔石の回収に向かう。
大型魔獣とあって、食べられる部分は多い。内臓などの腐りやすい部分は、ウルフやビッグタイガーなどの肉食動物系の配下に、さっそく振る舞われる。
ライガーが1匹の野生のウルフを連れて、こちらへとやってくる。どうやら、群れのボスみたいだが、激しい戦闘があったのか、ケガをしているみたいだ。
「ガウッ。群れのボスは、我と同じホワイトウルフで、メスのようです」
ライガーの報告を聞いて、その姿を確認してみる。
汚れていてパッ見はわかりにくいが、確かに群れのボスはホワイトウルフみたいだ。引き連れていた群れを見ると……下位種が多く、痩せている個体や、子供もいて、あまり状態は良くなさそうだ。
(魔眼、鑑定!)
【 種族 】ホワイトウルフ
【 名前 】
【 レベル 】23
【 魔力 】178
【 加護 】嗅覚増幅
【 スキル 】魔力操作3 統率2 体術4 隠密3 身体強化4 感知系:気配4魔力2 魔法系:雷2無4
30に到達する前に、上位種のホワイトウルフという事は、産まれた時から上位種だったのだろうか。高い戦闘力を持っていても、子供などを守りながらは大変だったに違いない。
ダンジョンマスターの能力を使えば、領域内で名付けを受け入れた相手を、眷属にする事が出来る。群れのボスを眷属に迎える事が出来れば、一緒にいる野生のウルフ達も、新たな戦力になってくれそうだ。
「お前たちウルフを迎え入れたい。名付けを受け入れてくれるか?」
「ガウッ」
野生のウルフは、序列を大事にする。強きリーダーであるライガーが、ダンジョンマスターに従う様子を見て、決心してくれたみたいだ。
「おまえの名前は、シルビアだ。よろしくな!」
「ガウッ」
眷属へと迎え入れた後は、回復魔法を使って怪我を癒し、仲間となった者達にも食事を振るまう。同族のライガーに、シルビア達の事をまかせておけば、大丈夫そうだ。
草原へと入ったばかりで、いきなりのハプニング。
いきなりの草原エリアの魔獣との戦闘になったけど……。野生のウルフ達を、味方に引き入れる事が出来てよかった。
まだまだ目的地までは距離がある。草原エリアには、無数の生き物達や危険な魔獣もいる。
拠点建設への道のりは、まだ始まったばかりである……。
同じ種族のライガーとシルビア。
偶然の出会いから、新たに始まる物語……。
この時の二人は、まだ何も運命を感じてはいなかった。
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