2章:魔物の島

第34話 離島の秘密集落と戦の準備

【 異世界転生 110日目 】


 草原エリアでの拠点建築も落ち着き、ついに離島への遠征が決まった。


 まずは先駆けとして、セレネとソラを筆頭に上空から島の地形を確認してもらい、地図作りだ。敵には空中戦も得意なピッポグリフもいて、遠くからの偵察となったが、大まかな地図が完成した。


 さらに、島から移住してきたケットシー達にも協力してもらい、たおすべき敵の情報や水場なども教えてもらっている。


 魔の島の中でも、特に危険なのは……。


 北東の岩石地帯には、巨大なアーマーロックタートルの亜種がいる。


 体長10メートルはあるという、その大きさだけではなく、物理攻撃がほとんど効かず、防御力と生命力が非常に強い。魔法攻撃でダメージを与えても、非常に生命力が強く、岩石を投射してくる、岩魔法での攻撃も強烈だ。


 北西には、海を挟んだ離島に居るヒッポグリフの亜種がいる。


 他の個体よりも動きが素早く、強烈な風魔法も使ってくる。攻撃をしようとしても、空中を自由に飛び回られると、攻撃を当てる事も出来ないという、やっかいな相手だ。


 今までに、討伐しようと試みた事はあったが、あまりの強さに被害が大きくて、あきらめる事にしたみたいだ。それ以来は近づかないようにして、ひっそりと暮らしていく事になったみたいだ。


「島のヌシもやっかいだけど、他にもリザード種やエイプというやつの数も多そうだ。討伐するのは大変そうだなぁ」


「わぅ。少しずつ、敵の数を減らしていくしかなさそうですね」


「にゃ。島に残っている戦闘部隊も手伝うにゃ!」


 リザード種は、アーマーリザードや、ロックリザードもいる。


 エイプ種は、南西の深い森の中に多く……サルのような魔獣で、群れで活動しているようだ。





 ケットシーや猫獣人が先頭となって案内役になり、いよいよ……空の便が、北の島へと向かう。


 事前に、ワイバーンに乗って向かう事は伝えてあるが、同じ種族の身内が居た方が、安心出来るだろう。ピッポグリフの襲撃に注意しながら、セイレーン達を護衛にした空の便が往復し、順番に島へと到着していく。


「にゃ。帰ってきたにゃー!!」


 両手を突き上げるポーズをしながら、叫ぶエルメテオ。


 浜辺へと到着し、遠巻きに見守る者達の中から、こちらへと近寄ってくる者達がいる。


「こら、静かにせんか。魔獣が寄ってきたらどうするにゃ!」


「にゃにゃ、……長老にゃ?!」


「エルは、いつも騒がしいにゃ」


 合流したのは、島に残っていた者達をまとめているケットシーの長老達。見た目だけでは、年齢の見分けがつかない、不思議な妖精種族だ。


「初めまして、代表のレンディといいます。セレネがお世話になったようで、ありがとうございます」


「あらあら、あなたが噂のレン君ね。私はエルの母親のミラにゃ」


「話しは聞いておる。長老のラシルドにゃ」


 挨拶を交わした後は、さっそく隠れ里と言われる洞窟集落へと向かう。





 浜辺の近くには、大きく口を開けた入り口がある。


 中に入ってみるとそこは……。洞窟というよりも、まるで『天然の鍾乳洞』のようになっていた。


 興味深そうに、初めて見る者達を、遠巻きに観察するケットシーや猫獣人。その外見は……衣服はやぶれた箇所が多く、魔獣の毛皮と何かの植物の繊維を使った物が多い。生活用品も質素な物が多く、暮らしは大変そうだ。


「さぁ、この奥には光が差し込むと、きれいに光る水場もあるにゃ!」


「うわぁ~。すごい洞窟だね!」


 エルメテオに案内されて、光る水場があるという場所まで行ってみる。


 そして、その場所には――

 きれいな宝石のように、青く輝く水面。まさにここは、『青の洞窟』だ。


 知識としては知ってはいたけど、実際に見るのは初めて。感動するような、きれいな景色が広がっていた。





 洞窟内を案内された後は、今度はこちらから、用意したおみやげを渡す事にした。おみやげの中身は、戦闘用の武器と防具。生活用品として、衣服と食べ物だ。


「マシロ、持ってきたおみやげを、みんなに渡してあげて」


「わぅ。広場に出しますね」


 集まっている人々に説明しながら、順番におみやげとして用意した物資を渡していく。


 その中でも一番人気となったのは……なぜか、川で捕れた『アロワナ』のような魚だ。


「にゃにゃ、珍しいおさかなにゃ!!」


「おさかなにゃー!」


 猫族達が、水槽に入れたまま運んできた、新鮮なお魚に大興奮。


 よだれを垂らしながら、水槽にしがみ付く者までいて、予想以上の様子に驚いてしまう。この島にはほとんどいない種類みたいで、かなりの貴重品。大量に泳ぐ魚に、猫族達の興奮がなかなか冷めなかった。


「よし、じゃあ今日は……お魚をみんなで食べよう!」


「「にゃー!!」」


 急遽セレネに連絡をして、追加のお魚を捕ってきてもらい、お魚祭りの開催だ。食べ物を通じて、もっと仲良くなれると嬉しいなぁ~。


 用意するお魚料理は……。


 新鮮なお刺身、シンプルな塩焼き、香草で包んだ蒸し焼き、お魚を煮込んだスープ。


 獲物を狙うような目付きの猫達。すごい勢いで料理が消費されていく。食べ過ぎて、おなかがパンパンになり、仰向けに寝転ぶ猫達が、地面に量産されてしまった。


「うわぁ、いっぱい作ったのに……すぐに無くなっちゃったぁ」


「わぅ。みんな幸せそうですね」





 明日からは、島での本格的な魔獣狩りが始まる。これからのきびしい戦いの前に、ちゃんと交流が持てて良かった。


 相手にする魔獣の数は多い。


 もしかしたら、犠牲者が出る事もあるかもしれない。それでも……仲間同士で、お互いに支えあって、この戦いを乗り切りたい。


「この島を制圧するためにも、がんばらなきゃな」


「わぅ。みんなで頑張れば大丈夫ですよ」


 新たな仲間達とのお魚騒ぎ。楽しい時は、あっという間に過ぎていく……。





「なぁ、マシロ~。ちょっと語尾に、にゃんって付けてしゃべってみて?」


「わぅ。猫みたいにしゃべるのはちょっと……。外見としていえば、私は犬ですよ!……わんっ」


 どうやらマシロには、にゃん語の良さはわからないみたいだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る