第10話 うっみだぁ~!入り江と拠点作り
【 異世界転生 19日目 】
ついに念願の、うみうみうみ、海である。
海岸の一部が、丸く陸側に……えぐるように入り込んできている、入り江に到着した。
「うっみだぁ~!やっとうみにきたぞーーーっ!!」
「おっきな水場ですね」
「ふむ、変わった匂いがしますな」
はしゃいでいるマスター。
周囲の警戒をしながらも、落ち着いた雰囲気で、珍しい物を見た……といった感じの、守護者。砂場で遊び始めてしまったりする、配下達。
「よし、周囲の警戒と探索は、BCチーム。主力組は……ここに、拠点を作るぞ!」
「わぅ。まるで、山が真っ二つにされたみたいですね~」
入り江の左右には、山を削ったような場所がある。土魔法などを使って、さっそく洞窟タイプの拠点を作っていく。
近場には居ない様だが、遠くには大型の海洋生物も見えた。避難できる拠点は、重要になってくる。
入り口は、大きな外敵がきても安全に避難できるように、コボルト達が通れる位の小さめな通路を作る。洞窟の中には……広々とした空間や、小部屋などを作っていく。
さらに今後は中を広げて、一部は海とつながる、安全な漁場の確保もする予定だ。
夢中になって拠点を作っていると、あっという間に時間が過ぎていく……。ある程度の広さを確保した所で、一区切りだ。
「マスター。夢中になるのはわかりますが……。お昼ご飯は、ちゃんと食べてくださいね」
「目の前に海産物があるのに、干し肉はちょっとなぁ~。うわっ、わかったって。ちゃんと食べるから!」
魚へと目を向けるマスターに、強引に食べさせようとするマシロ……。
マシロの様子に気づいて、あわてて自分の手で干し肉を食べ始めるマスター。
入り江では、森では見かけない、様々な生き物がいる……。
カニやムカデのような生き物、アサリのような貝類、色鮮やかな魚達、小型の鳥なども見える。
小型だったり可愛らしい外見とは裏腹に、危険な敵になる恐れもある。見かけた生き物を、順番に魔眼の鑑定を使ってチェックしていく。
魔眼の能力は、対象のレベルや能力の他に、簡単な説明文のような情報も得る事ができる。異世界に来る時に得たスキルとはいえ、どこからその情報が得られているのかは不明だが、非常に便利だ。
チェックした中でも気になっているのは、あの生き物。
シークラブ:海に生息。特徴的なハサミがあり、食材としても食べられる。
「カニだ!カニがいるぞっ!!」
「海の中にも、昆虫みたいなのも居るんですね」
「ふっ、あのカニは……食べると、すごい美味しいんだぞ!」
危険な魔獣や生き物に注意しながら、水魔法を使って魚やカニを取っていく。
一緒に行動するコボルト達は、初めての海体験……。海水を舐めては変顔を披露したり、恐る恐る水に濡れては、豪快に水気を振り払ったりしている。
さらに実験がてらに、調味料となる塩作りだ。
鍋に海水を入れて沸騰させ、塩分濃度が高くなった所で、水魔法を使って塩とにがりに分けていく。
「ふむ、これなら充分に塩として使えるな」
「しょっぱいです!」
本来はフィルターなどで『ろか』する所を、強引に水魔法で試してみた。これで安定して塩を手に入れる事が出来るようになる。
ダンジョンメニューから商品カタログを開けば、最低限の食材はあるが、調味料は何もなかった。食事を美味しく食べる為にも、調味料は自力で手に入れていきたい。
塩と魚があれば、あの調味料が作れるかもしれない……。
日本人ならみんな大好き『醤油』だ。
ハリセンボンのような生き物に手をだしたコボルトが、麻痺毒をくらうなどのハプニングはあったが、海辺での収穫は大量だ。
「そろそろ、帰る準備しなきゃかなぁ~」
最近作っている、植物の蔓などを編んで作った、背負いカバンを持ってきている。そこに、海産物と魔法で作った氷を、一緒に詰め込んでいく。
「海の生き物は、新鮮さが大切だ!さっそくダンジョンへと戻るぞー!」
「ガウッ」「わんっ」
素早く荷物整理をして、帰る準備をする。
「遠足は家にちゃんと帰るまでが、遠足だぞ!しっかりと気を抜かずに、周囲の警戒だ!」
斥候役のライガーを先頭に、ダンジョンへと帰宅する道を進む。
「きょうっは~、カニなっべ、カニなべだ~♪さかなのし~おやっきぃ~、か~いせんすぅ~ぷ~♪」
アドリブで作った歌を歌いながら、いつも以上にご機嫌なマスター。時折、海産物へと向ける視線がばればれだ。
「ふふっ、今日もマスターは楽しそうですね」
優しく見守る母親のようになってきたマシロ。時折きびしく威厳のあるおじいちゃんのようなライガー。ダンジョンで産まれて、次第に個性が出てきた、配下モンスター達。
活動範囲も、徐々に広がっていく……。
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