第26話 海の守護者


 ダンジョン地下5Bに新築された、ダンジョンマスターの住処の中。


 いつものように、暖かな温もりを感じながら、目覚める気配がする。


「う~ん。そろそろ朝かなぁ~。ダンジョンメニュー」


 システム画面の時計から、いつものように時刻の確認をする。


【 時刻:6時02分 】


 そして、なんとなくシステム画面の、ダンジョン内の告知に目を通す。


「ん……?あ、ダンジョンコアが、Cランクにあがってる!!」


「わぅ?マスター、おはようございます」


 思わず声を上げて、驚いてしまった。どうやら、マシロも起きてしまったみたいだ。


 Dランクへと上がったのは、アリシアが来た頃あたりの、30日いくかどうか位だったはずだ。そこからなかなか上がらずに、条件は不明なままだったのだ。


 今ではダンジョン生活も70日以上になり、日替わり収入はつい先日6000Pを超えた。食料の生産を増加しながら、配下モンスターもどんどん増えてきている。


 おそらくだが、ネックとなったのは……配下モンスターの数が、500を超えたせいだろうか。



【 現在の配下モンスター 】


 ◇ダンジョン本拠地

 角ウサギ:20

 マッドボア:10

 スライム:15

 スパイダー:5

 スケルトン:100

 ウルフ:30

 コボルト:100

 ホーク:15

 フォックス:12

 ビッグモール:10

 ゴーレム:5

 バルム:5

 レギュラス:10

 マジカルキャット:12

 ドライアド:5

 アラクネ:20

 ドッペルゲンガー:30

 シルキー:3


 ◇訓練用ダンジョン

 ゴブリン:70

 オーク:30



「守護者の枠が2つ空いてるから、どうしようかなぁ……」


 どんな守護者を召喚するか、悩んで考え込むマスター。


 今までは必要な人材をイメージして、その時々に守護者として召喚していた。これから先の事も含めて、どんな人が居れば、ダンジョンにとって良いかなぁ~。


「う~ん……。海辺の拠点もあるし、海に強い人材にしようかなぁ」


「わぅ。なるほど、さすがマスターですね」


 どんなモンスターを召喚するか、召喚リストを眺めながら決める。新たにCランクとなった事で、地域にあわせたモンスターが、さらに追加されている。


「よし、決めた!さっそく大広間で、守護者の召喚しちゃうぞ~!」


「わぅ。みんなに声を掛けてきますね」


 ベッドから起き上がり、大昼間へと向かうマスター。


 新しい守護者……新たな仲間……。期待に胸を躍らせながらも、どんな人物にするかイメージを固めていく。



 ◇



「ではこれから、新しい守護者を召喚する!みんなで歓迎してあげてね」


 これから召喚する守護者のコストは4000ポイント。


 かなりの高コストを要求される、海辺に強い新規追加モンスターだ。


 イメージは……きれいな歌声を響かせ、人魚のように海を自由自在に泳ぎ、鳥のように空を舞う事が出来る存在。


「ダンジョンメニュー 守護者召喚!」


「きゅいっ」


 サポート召喚獣であるラピスが、ダンジョンコアの機能を使い、その体が輝き始める。


 ラピスが幻想的な雰囲気で、地面に魔法陣を描き出す。


 マスターがイメージを強く思い浮かべながら、その魔法陣へとゆっくり魔力を流し込む。


 魔法陣の光が満ち……ついに、新たな守護者が出現する。


 光が収まると……そこには、綺麗な白い羽を纏った、大人の雰囲気を感じさせる女性が現れる。


「初めましてマスター。何なりとご命令を」


 さりげない動作で地面に膝をつき、胸に手をあてながら一礼する守護者。


 モデルのような体系に、豊かに膨らんだ胸。鳥のような羽毛で、大事な所は隠れていたが、裸同然のような……魅力的な姿には、思わずドキッとしてしまった。


 マシロがこうなる事を予期していたかのように、さりげなくマントを使って、召喚された守護者を包む。


「おまえの名前はセレネだ。これからは、海辺の拠点の事を中心に、重要な役割をまかせるぞ」


「はい。私におまかせください」


 さっそく名前を付けて、これからの役割を、守護者へと伝えるマスター。


 名づけと共に、周りで見守っていた守護者や配下達が、歓声を上げながら……新たな仲間の誕生に喜ぶ。


 彼女の種族は『セイレーン』


 歌声で相手を魅了し、鳥の羽で自由に空を飛び、人魚のように優雅に泳ぐ事が出来る。亜人のような、海のモンスターだ。



 知識の継承:中央大陸一般常識1、人型種共通言語1、地球一般常識1、地球一般教養2


【 種族 】セイレーン(亜種)

【 名前 】セレネ

【 レベル 】1

【 魔力 】152

【 加護 】念話 形状変化(鳥・人魚) 魅惑の歌声 ダンジョン守護者

【 スキル 】魔力操作3 統率1 体術2 身体強化2 感知系:気配2魔力2 魔法系:風2水2無3



 コスト4000だけあって、初期ステータスが今までの守護者よりも高く、ユニークスキルが2種類もある。これからレベルが上がれば、さらに強力な守護者になりそうだ。


 産まれたばかりの守護者に、さっそく話しかけにいく人物がいる。アリシアとティナだ。


「私がダンジョンマスターの、レン君のお姉ちゃん。アリシアよ!よろしくね」


「私は大妖精で有名なティナよ!わからない事があったら、この私が教えてあげるわ!」


「はい。よろしくお願いしますね」


 守護者達とも順番に自己紹介を交わし、すぐに打ち解けて仲良くなるセレネ。


 種族のせいか、本当に声がきれいで……落ち着いた雰囲気だ。きれいな声と歌声には、音楽が合いそうだなぁ。手元にあるアレを、プレゼントしてみようかな。


「セレネには、さっそくだけどプレゼントもあるんだ。スキルの魅惑の歌声には、きれいな音のする楽器が似合うんじゃないかな。これは、オカリナという楽器だよ」


「これが楽器なんですね。楽しみです」


 セレネのイメージに合う、白いオカリナをプレゼントするマスター。


 音楽の基礎となる楽器があれば、歌う時の音程の調整や、歌うだけじゃなく……音楽自体の楽しみを、もっと知ってもらうためにも、きっと便利になるだろう。


 簡単な演奏の仕方と、歌う為にも必要となるメロディーを教えていると、お返しとばかりに……音楽に合わせて、さっそくセレネが歌いはじめる。


「ららら~♪ ら~♪ ら~~♪」


 メロディーを教えたばかりとは思えない程の、セレネの歌声。


 音楽と歌声に合わせて、さらに仲間達が集まり、まるで音楽祭だ。


 オカリナだけではなく、最近作り始めた笛の音も合わさり、カスタネットのような楽器でリズムを取り、コボルト達はアクロバティックな動きで、音楽に合わせて踊り始める。


 まさに、音を楽しむ『音楽』


 自然とみんなが明るく笑顔になれる。素敵な時間だ。個人的には、まだまだ楽器が少ないのには不満があるが、これからもっと増やしていきたいなぁ。





 新たな守護者を迎え、盛大な音楽祭となったダンジョン。

 セレネが海の守護者と呼ばれ、活躍していくのは、まだ先のお話し……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る