第28話 海辺の拠点


 遠征隊から、初めての手紙が届く。


 ――セバスチャンの旅路は、順調みたいだ。

 街へ向かう道中で女性の商人と出会い、商隊が魔物と戦闘している所を助ける。そして、そのまま戦闘能力を認められて、護衛として一緒に街を目指して旅をしているようだ。


 気になっていた赤ん坊については、セバスチャンが道中の村で聞き込みをしてみた所、猫の獣人達が北側のどこかに居るという話しを聞いて、そこに向かう途中だったようだ。道中にある人間の村では、かなり昔の事みたいだが、猫族達が村を通った事があるらしい。



 ◇



「クァー、クァー」


 海辺の近くでは、森の中とは違った鳥達が鳴き声を上げている。


 朝早くからダンジョンを出発し……待ちに待った、拠点の開拓を進めるために、海に来たのだ。


 新たな守護者となったセレネの他には、直属の配下として同じ種族のセイレーンを4体召喚し、上空部隊としてホークを8体まかせてある。海と共に上空の脅威にも対処していけるように考慮してある。


「まずは、しっかりと周辺に敵がいないか確認しよう」


「わぅ。安全確認からですね」


「ガウッ、我らは地上を見回ってこよう」


「はい、では私は上空から見回してきます」


 用心深く地上と上空の両方から、脅威となりそうな敵がいないか確認する。


 守護者から念話で連絡が来る限り、近場には危険なモンスターは居ないみたいだ。少数のゴブリンやオークが見つかったが、上位種となったウルフ達やセイレーンに、すぐさま倒されてしまった。





 守護者達に周囲の警戒と索敵をしてもらっている間に、『街を作る場所』を選ぶ。


ポイントは自然現象や戦闘などによって、津波が発生しても被害が出にくい場所。候補地となりそうな場所を、順番に見回っていく。


 海辺から少し離れた場所には、海を見下ろせる崖がある……。崖の上側には小高い山と岩場があり、周りを一望出来る場所。


「マシロ~、ちょっと肩車して!」


「わぅ?」


 マシロに肩車してもらい、高い場所から景色を見回してみる。


 海からは心地よい潮風が吹き、山から海へと流れ出る川の水場もあり、立地としては最適だ。


「よし、ここに海辺の拠点となる街を作ろう」


「わぅ。見晴らしが良くて気持ち良い場所ですね」


 悩みながらも、街を作る場所を決めたマスター。


 街の広さを決めて、周囲には川からの水を流す水堀用の堀と、頑丈な石壁を作り始める。下水施設や水回りの為の通路などは、作業に慣れてきたコボルト達にまかせて、街の四隅には石材を使って、灯台に似た監視塔を作り出す。


「海辺といえば、本来なら明かりを灯した灯台だけど、魔物がよってきそうだし、普通の監視塔かなぁ」


「光によってくる魔物は多そうですね」


 残念といった表情をするマスター。すぐに気持ちを切り替えて、また作業を続ける。


 街を建設した後は、入り江に船着き場も作る予定だ。森の中の拠点よりも、さらにやる事が多くて、大規模になってくる。


 新たに配下を大量に追加召喚し、訓練とレベル上げをした者達が街の建設に協力してくれるようになった。それでもやるべき事は、まだたくさんある……完成するまでには、かなりの時間が掛かりそうだ。


 総勢50名による基礎工事。あっという間に建設は進み、ある程度の街の形が見えてくる――





「この岩場になっている場所に、拠点となるお城を作るぞ!」


「わぅ。またお城ですか?」


「今回は、イギリスにあるリーズ城をイメージして作るぞ」


 前世では、英国一美しい城とも言われたリーズ城。


 要塞として建築され、その後に貴婦人の館とも言われる宮殿に変わった城。その姿を思い出しながら……魔法で小さな模型を作り、完成予想図を思い浮かべる。


「う~ん、お城の周りには、川から流れてくる水と、湧き水の泉を設置して……きれいな湖にしようかな」


「水の上に建つお城なんて、すごそうですね」


 土魔法の形状変化で模型をいじるマスター。悩みながらも……自分で設計して作るのが楽しそうな様子だ。


 海辺にあり、川からの水を利用した『水の都』。町中にも噴水を作り、水路を張り巡らせたい。


 いつかは船を建設し、他の大陸などと行き来する事が出来るようになれば、さらに発展していくだろう。その時には、『水の都の象徴』とも言える、優雅に聳(そび)え立つお城と共に、傍にある湖では水性生物の姿も、気軽に見る事が出来るようにしたい。


 夢中になって建設をしていると、時はあっという間に過ぎていく――





 魔力残量に制限がある魔法だけではなく、手作りでもレンガを作ってはいるが、材料が大量に必要になる。この日の為にと作っていたレンガも、あっという間に消費されて無くなっていく。


「早く完成させたいけど、思ったよりも時間がかかりそうだなぁ~」


「わぅ。森の中の街もまだ途中ですし、まだまだ時間がかかりそうですね」


 軽く背伸びをしながら、少し疲れた表情を見せるマスター。


 同時進行で作っている、森の街もまだまだ完成には程遠い。あせらずに、地道に街作りをしていくしかないかな。


「マスター、そういえば……街の名前は、どうしましょうか?」


「う~ん……。どうしようかなぁ~」


 たくさんの名付けでも悩んだように、ネーミングセンスが切実にほしいと思うマスター。


 初めての街、アルファ、ベータ、森、海……。重要なキーワードになりそうな言葉を、色々と思い浮かべてみる。


「よし、森の街は『フォレスタ』。海辺の街は『アクアパラダイス』にしよう」


 フォレスタは、森をイタリア語にした言葉を基準にして付けてみた。水の都は……わかりやすく、水の楽園という意味だ。


 悩んだ挙句に、シンプルな名前を付けてみたけど……慣れれば呼びやすくなるかな?


 太陽の日差しが徐々に傾き、もう少しで夕方になってくる。簡易住居として作った場所に残る者達も多いが、そろそろダンジョンに帰る時間だ――





「ふぁ~、疲れたぁ~」


「わぅ。後はマシロにまかせて、ゆっくりしていていいですよ」


「うん。まかせたぁ~」


 ウォーホースに騎乗しながら、ゆっくりとダンジョンへ帰還するマスター達。


 マシロに抱きかかえられながら、いつの間にか眠っているダンジョンマスター……。配下となる仲間も増え、レベルが上がって強くなったとはいえ、その体は小さな幼児のままだ。





「わぅ。マスターの寝顔は、いつ見ても可愛いですね」


 守護者に抱きかかえられながら……ぐっすりと夢の中に旅立つのだった。


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