第42話 大人気 ウォールロックバウンド
無事にエイプの森とダンジョンを攻略し、島のヌシも味方に引き入れる事が出来た。
残るは、巨大なアーマーロックタートルのみ。あせりは禁物とばかりに、次に向けての充電期間である。
そして、その充電期間では……。
いったい何をしようとしているのかと言うと、以前に子供のおもちゃとして用意した『サッカーボール』が人気となり、小さな子供だけではなく、体の大きな大人達までもがボールを奪い合うという……熱狂的な、大人気遊びとなった。
そこで、娯楽を兼ねた訓練として、チームワーク、運動能力などを鍛える簡単なゲームを教えてみると、さらに人気が広がっていき、誰もが熱中してしまう程の遊びとなってしまった。
「いっち、にっ、さんっ、しっ……」
「わぅ。後ろにも目が付いてるみたいですね」
足の後ろ側にあるカカトや、目では見る事の出来ない、背中などを使ってのボール遊び。
そう、知る人ぞ知る『リフティング』だ。
ボールを上手く扱う為の訓練の基礎。慣れてくると、巧みな体捌きでボールを扱い、曲芸師がボールを使った、演武をするような感覚で、人々を魅了する事も出来る。
「よっ、はっ。そ~れっ」
「わんっ。マスターすごいです!!」
マシロにおだてられながら、調子にのって色々な技を披露するマスター。
それが、いつの間にか集まってきたコボルト達も混ざるようになり、気が付けば……大人数で『ボールに群がる集団』が出来上がってしまうという、不思議な現象が起こった。
動くボールを追いかけたくなるという、動物的な本能を刺激しているのだろうか……?
「うわぁ、またすごい集団が出来ちゃった」
「わぅ。つい追っかけたくなるという、気持ちもわかりますね」
集団をジッと眺めながら、顎に手を当てて思案するマスター。
「よし。これだけ人気なら、本格的に競技場を作っちゃおう!」
「わぅ。それはどんな物なんでしょうか……?」
マシロに、どんな競技場にするのかを説明をするマスター。
今考えているのは、基本的なルールを決めた『サッカーのような競技』を、自由に行える場所を作ろうとしている。あくまで似ているだけで、異世界風にルールや場所を変えて、新しいルールを作り上げるつもりである。
「よし。……さっそく訓練場の近くに、作りに行くぞ」
「わんっ。どんな場所になるか楽しみです!!」
訓練場の近くにある空地へと向かい、さっそく魔力を練り始める……。
さっそく訓練場の近くへと建てられたのは――
横幅30メートル、縦幅70メートル程で、3メートルの土壁にぐるりと囲まれた、長方形の競技場である。両サイドにはゴールが作られ、中心付近には、見た事の無い『石柱』が4本建てられているのが不思議な光景だ。
「ふぅ。こんなもんかなぁ~」
「わぅ。シンプルですが、かなり魔力を使いますね」
マシロや周囲に居たコボルト達と共に、かなりの魔力を使って建てられた競技場。
前世のサッカーにはない、囲まれた土壁と石柱は、いったい何を意味するのだろうか。
「よーし。試しに、バウンドさせちゃうぞー!」
「わぅ……?」
壁や石柱に向かってボールを蹴り、跳ね返ってきたボールを、また壁や石柱に向かって蹴り返す。
前世では『壁当て』などと言われた事もあるが、そのバウンドする特性を上手く使って……立体的な動きをしながら、空中でボールを蹴ってみたりといった、立体機動の動きを楽しむ事が出来るようになっている。
「この壁を上手く使えば、簡単に相手をかわしたり、味方にボールを渡す事も出来る。シンプルだけど、激しい戦いになるし、楽しいぞ~!」
「わぅ。なんだか面白そうですね」
突然作られた競技場に、配下達も興味深々で群がってくる。
「よし、じゃぁこの競技場で、5人と5人のチーム戦をするぞ!」
続々と集まってきた者達に、基本的なルールを教えていく……。
手を含めたどこを使ってもいいが、ボールを抱きかかえたり、口にくわえたりといった行為の禁止。蹴ったり、はじいたりといったボールの扱い方が基本となる。囲まれた土壁の上を超えていったボールは、サッカーと同じように、外に出した人の相手側のチームが、土壁の上からボールを投げ入れる。
「う~ん、この競技の名前はどうしよっかなぁ」
「わぅ。ボール遊びじゃだめなんですか?」
直観とイメージで、新しい競技の名前を考える……。
「よし、新しいこの遊びは『ウォールロックバウンド』という名前にするぞ!」
「わぅ。なんだか、良い感じの響きがする名前ですね」
ネーミングセンスがないからなぁ。などと呟きながらも、ついに競技の名前が決まる。
新たな競技場で、面白そうなボール遊びが開催される。
その情報は、瞬く間に広がっていき……あっという間に、競技場が熱気に包まれる事となる。
熱狂的な人気となった『ウォールロックバウンド』により、土魔法が得意なコボルト達が集められ、新たな競技場が、次々と生み出されていく……。
新しく作られた広さが大きい競技場では、石柱の数が増やされて、より立体的な動きをする者達が増えていく。
まるでボール遊びをする曲芸師さながらの、『立体的な三次元の動き』に、空中機動や体術の技術などが、すごい勢いで上達していく事となる。
まさに、ボールをバウンドさせながら……戦争のように戦う『ウォーゲーム』だ。
「うわぁ。一気にここまでのすごい人気になるなんて……予想以上だなぁ~」
「わぅ。すでにこの辺りだけで、競技場が10個はあるみたいですよ」
人気ぶりに驚きながらも、新たな娯楽が増えて嬉しそうなマスター。
将来的には、チームごとに名前を決めて、勝ち抜き戦の大規模な大会を開いてみたいなぁ。優勝賞品や、トロフィーなども用意しておかないといけないな。
「よし、俺達も試合に混ざりにいくぞーっ!」
「わぅ。負けませんっ!!」
こうして『ウォールロックバウンド』というボールを使った競技が、新たに生まれた瞬間である。
大陸中で熱狂的な人気となるのは、まだまだ先のお話……。
「よし、こっちだマシロ!!……オーバーヘッドシューート!」
「わんっ。マスター、お見事です!」
楽しそうに走り回り、ボールを蹴りあうマスターと配下達。
「ふふっ、レン様……私達にかかれば、お手の物でありんす」
「ちょっと、それはずるいって!!糸を使うのは禁止ね」
アラクネの凜による、魔糸を使ってのボール操作は、どうやら禁止になったみたいだ。
こうして異世界で、また『新たな娯楽』が生まれたのである……。
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