第43話 現代や古代技術の試作品

 充電期間――

 そんな事を言いながらも、マイペースに動き回る人がいる。


「よ~し、今日は色々と作っちゃうぞー!」


 そう、モンスター達の産みの親、『ダンジョンマスター』その人である。




 つい最近、また新しい娯楽『ウォールロックバウンド』を生み出したばかりというのに、また新しい物を作るつもりみたいだ。


 今日向かっている先は、武器・防具などの、様々な物を生み出している、鍛冶場である。


「サクラ~、モモ来てる~?」


「「わんっ」」


 マスターの呼びかけに、鍛冶場の奥から現れたのは、最初期から職人・生産で重要な役割を担ってくれている、メスのコボルトの2人だ。


「今日は、新しい作物用の『機械』を作るから、2人には覚えてほしい」


「「わんっ」」


 簡単に描かれた図面には……四角い箱型に覆ったものに、ドラム缶のような物と、歯車が組み合わさった、見た事も無い『機械』である。


「これは、穀物の収穫などを助けてくれる物だ。応用出来れば、色々な使い道があるぞ」


「わぅ。これが、以前にマスターが言っていた、機械なんですね……」


 マスターに、いつも護衛として付いているマシロも、覗き込むようにして、図面の確認をしている。


 そう、それは――現代でも、田舎ではいまだに使われている『足踏み式の脱穀機』である。


 足で歯車を回し、その力で脱穀するためのドラム缶のような物を回すという、機能的にはシンプルな物である。


 脱穀といえば、その簡単な作り方と機能から、千歯扱(センバコ)きが有名だが、それが歯車という動力を得て進化したのが、この足踏み式の脱穀機である。


 素材もいたってシンプル。

 いざとなれば、木材だけでも作る事が出来る。


 今回は壊れにくくするため、合金製の金属を使う事になるが、一度作り方さえ覚えてしまえば、色々な機械を作る時にも、部品の応用が可能となる。





「ふふっ、これさえ出来れば……人間の街から手に入れた、お米の稲が成長すれば、手軽に脱穀出来るぞ!」


「わぅ。なるほど、やる気になっていると思えば、マスターの好きな『お米』のためですか」


 夢中になって、足踏み式の脱穀機を作っていくマスター。


 ダンジョンメニューの中にある商品カタログは、前世でゆかりのある物の中から、生きていくための最低限の物だけが、購入出来るようになっている。


 その中には……食品として『おにぎり』が登録してあったのだ。


「お米が欲しい時に、ポイントを何度も使うのは、もったいないからなぁ~」


「わぅ。マスターが言っていた、コスト削減というやつですね。」


 人間の街からは、セバスチャンを通じて、食べられそうな物をいくつもダンジョンに持ち帰り、育てている最中である。


 ドライアドとコボルト達の管理する、太陽のような照明を設置した異次元階層で、森の中で採れた物など、色々な作物を大量に生産している。


「食べ物といっても、色々な素材となる植物や果実が増えれば、さらに生活は豊かになるぞ」


「わぅ。美味しい食べ物は幸せな気分になれますね」


 今までは……栄養を取るだけ。おなかをいっぱいにするため。そういう感じで、食べ物を口に入れる事が多かった。


 これからは、新しく『美味しい料理』という文化を広げていきたい。


 さらに、食べ物だけじゃなく、お酒などの『飲料水』の種類も増やしていきたい。


 『食という文化』が、まだまだ発展していないダンジョンにも、これからは『美味しい料理』という物を増やしていきたいなぁ~。


 他にも、料理を美味しくする調味料として、魚から作る醤油である『魚醤』だったり、大豆もどきから作っている『味噌』などの調味料も作っている。


 以前にも同じ事を考えた地球人が居たのか、一部の地域では、人間の街で流通している所もあるようだ。





「よ~し。やっと、足踏み式の脱穀機の完成だぁ~!」


「わぅ。難しいのは、歯車の調整だけでしたね」


「「わんっ」」


 マスターがさっそく試運転を行うと、勢いよくドラム部分が回り、快適に動作する。


 脱穀機を完成させた後は、コボルト達に増産の仕事をまかせる。


 そして、また違う物を作り始めるマスター。





 食という文化のため以外にも、マスターが試作しながら作っている物は様々だ。


 川を流れる水の力を利用して、歯車の技術を生かした『水車小屋』などの生活を支援するための技術。テコの原理でも、様々な新しい武器や、生活用品を作っている。


 武器では有名なカタパルトや、武器マニア位しか知らない、手投げ槍の『アトラトル』という物などもある。


 アトラトルというのは、現代人で知ってる人はほとんど居ないが、遥か昔の古代からある有名な武器で、普通なら射程50メートル程だが、身体能力を強化する事が出来る異世界では、驚きの100メートル以上飛ばせるという……驚異の『投げ槍』だ。


 作り方は、至ってシンプル――

 木の板に持ち手の部分と、矢を支える溝を掘るだけという、非常に簡単な物だ。


 テコの原理の生活用品では、ハサミやバールといった物から、ヴァイキングの技術を基礎とした、帆を張れる手漕ぎが出来る船も作っている。


 川や海で使える船は、風魔法で移動する事も出来るが、手漕ぎだけでも、魔法いらずで操作しやすい船となっている。


 船を作った時は、どこかから聞いてきた猫達が大騒ぎしたという、大人気の生活用品だ。


 今では、船を改造して屋根を付け、その中で寝始めている猫族達も居る程で、海や川に行く時は、護衛にセイレーンの誰かが付くようにしている。





「う~ん、本当は自分でもっと作りたいのに……試作品だけで、後はおまかせになっちゃうなぁ~」


「わぅ。色んな物を作っていると、しょうがないですね」


 マスターが制作するのは、模型だけだったり、最初の一つ目だけになる事も多い。


 新しい技術と知識が学べる職人は、コボルトとアラクネ達が筆頭になっている。マスターの知らない所でも、学んだ知識を使って、配下達だけで新しい物が少しずつ生まれてきているのは、今後の技術発展を考えると、嬉しい誤算だった。


「いつか平和になったら……。好きな物を作ったり、娯楽を広めたりして、楽しく過ごしたいなぁ~」


「わぅ。そんな日がいつか来るように、私もがんばりますね」


 最近は殺伐とした戦いが多く、犠牲者が出る程の戦いもあった。そんな日常の中、物作りをしているマスターは、本当に幸せそうである。




 だが、そんな平和な日常は続かない。

 すぐそこに、新たなる戦いが待っているのである……。


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