第46話 生まれ変わる離島

 巨大な島のヌシを倒し、『魔物の島』とも言える離島を治めて、早数日。


 中央付近にある、川の傍の拠点では、大きな神殿作りが開始されている――





「ほら、エル。動き回らないで止まって」


「にゃにゃ。このポーズはしんどいにゃ~!」


 真剣な表情でエルメテオを見つめながら、マスターの筆を持つ手が、繊細なタッチで軽やかに動く。


 手作りで作られた和紙には……ポーズを決めた、可愛らしいケットシーの姿が、いくつも描かれている。このデザインを元にして、神殿の壁の所々には、猫族達の絵が彫りこまれていく予定だ。


「女神様の像も新しく作らないとだし、猫族達の歴史を壁に描いてみるのも、楽しそうだなぁ」


「わぅ。壁の絵を見るだけで、楽しそうな場所になりそうですね」


 楽しそうに、エルメテオやマシロと会話を続けながら、デッサンをする。


 少し前までは『魔物の島』と言っていい程の、危険な場所だった北の離島。


 それが今では……危険な魔物は少なくなり、これからは『猫の島』とも言える楽園へと、生まれ変わろうとしているのだ。


 神殿には、今までの犠牲者への弔いと共に……平和になるまでの、今までの歴史が残される。島へとたどり着いた場面から、魔物を倒して治めるまでが、壁に絵画のように彫り込まれて残される。


 この場所をいつか後世で訪れた者達は、昔ってこんなに危険な島だったんだなぁ~などと、この壁の絵を見て驚く事になるかもしれない。


 そしてこれがきっかけとなって『絵画』という文化に刺激されて、絵の勉強を始める者が増えていくとは、誰もまだ予想していなかった――




 ◇



 元々いた猫族達以外にも、猫の数が大勢増えている。


 それは……移住してきた、マジカルキャット達だ。今では、新規に召喚された者も含めて、100匹近くの小さな猫が、我が物顔で島の中を歩き回っている。


 拠点の中には、新たに作られた施設も多い。その中でも……特に気になっている場所へと、足を運んでみる。


「ふふふっ。見てよレン君、猫達の楽園が完成したわよ!!」


「うわぁ。なんか、すごいの作ってる……」


 嬉しそうに笑顔を振りまきながら、マジカルキャットと戯れるアリシア。


 その情熱に、あきれるような、何とも言えない表情で、その楽園を見つめるマスター。


 拠点の中に作られているのは、猫達があきないようにと工夫された、アスレチック広場ともいえる遊び場の数々だ。


 土魔法の得意な者を集めて作られたそれは、巨大なジャングルジムのようになっていて、猫達が自由に遊びまわっている。


「この島を……『猫達の聖地』とも言える、そんな場所にしてみせるわ!」


 両手を握りしめて、やる気充分といった感じのアリシア。


 猫好きだと思ってはいたけど、ここまでの物を作り上げるとは、さすがに予想していなかった。


「えっと、じゃぁ……この遊び場は、後はお姉ちゃんにまかせるね」


「そうね。私には、可愛い猫達の幸せを守るという『大事な使命』があるの!」


 何かがおかしい方向へと、決意を新たにするアリシア……。


 任せておけば大丈夫だろう。たぶん、きっと。



 ◇



 拠点内を見回っていると……意外な場所で、最近知り合ったばかりの人物を見つける。


 コボルト達が大勢動き回っている中で、一緒になって楽しそうに駆け回り、家作りの作業を手伝っている。


「やぁ、拠点には慣れてきたかい?」


「うん。みんな優しいの」


「家づくり、楽しいの!」


 声をかけたのは、北西の離れた島で暮らしていた、あの人間の子供だ。


 なんと、双子の姉妹みたいで……名前はルルとレナ。


 金髪の可愛らしい子供で、年齢は10歳との事だ。


 産まれた時から魔獣と一緒に暮らす、テイマーの家系で育ったみたいで、魔物の配下相手にも親し気に話しかけている。保護されるまでの経緯については、詳しくは聞けなかったが……どうやら、両親は襲われて亡くなってしまったみたいだ。


「困った事があったら、いつでも声を掛けてね」


「大丈夫なの!」


「もう、寂しくないの~」


 双子の息の合った子供らしい答えに、自然と笑みが浮かぶ。


 護衛として、いつもグリフォンが傍に居てくれたみたいだが、一緒に生活するには、種族が違う事もあって、大変だったみたいだ。


 そこで、一緒に拠点で生活してみないかと誘ってみると……二つ返事で、こちらへ来る事が決まってしまったのだ。今は、メイドタイプのドッペルの案内を受けながら、徐々に拠点に馴染んできている。


「そういえばね、レン君」


「すごい妖精さんに会ったの!」


「……妖精さんかぁ~」


 嬉しそうな表情で、その時の事を話し始める双子。


 何かが引っ掛かるなぁ~と思って聞いてみると、自称大妖精と名乗る、可愛い妖精さんだったとの事。


 どう考えても、ティナだよなぁ~と思いつつも、双子の子供たちと何気ない会話をしながら楽しむ。


 ちょっと心配なのは、自称大妖精から……変な事を吹き込まれてなければいいなぁ~。なんていう、他愛もない事だった。


 そして、会話を続けていると……気になる事を、突然言い始める双子。


「いつか、わたしたちはね」


「「大妖精さんと一緒に『空飛ぶ騎士』になるの~!」」


「……え?」


 双子が声を揃えて、意味深な発言をする……。


 いったい、どんな事を話したのか心配だ。後でこっそりと、ティナに聞いてみようかなぁ~。



 ◇



 双子と別れてからは、いったん本拠地であるダンジョンへと、帰る準備をする。


「さすがに、そろそろ……人間の街にも向かって、様子を見てこないとなぁ」


「わぅ。セバスチャンからも、連絡が届いてますからね」


 これからまた大変になるな~。なんて言いながらも、ひさしぶりに執事のセバスチャンと会える事を、楽しみにしているマスター。


 異世界で人間達が暮らす街とは、いったいどんな場所なのかなぁ。新しいダンジョンについては、どうしようか。などなど……これからも、やる事や考える事がいっぱい。


「よ~し。悩んでてもしょうがないし、まずは行ってみてからだな!ほら、当たって砕けろって言葉もあるし」


「わぅ?……砕けてバラバラになるのはダメですよ!」


 わかんない事を、考えてもしょうがない。その時になってから、その場で前向きに考えよう。


 そんな風にポジティブに思いながら、まずは今出来る事を、一つ一つこなしていくしかないなぁ~。


 あっという間に、過ぎ去る日々――

 そしてまた……忙しい日々が、続く事になる。

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