第39話 エイプの森② ダンジョン攻略戦
2日をかけて、南西地域の地上が安定した。
そしてついに……いよいよ、ダンジョンの攻略である。
自分達のダンジョン領域内で活動している相手は、守護者や眷属の力が増す。逆に言えば、領域外で活動している、こちら側は力が弱まっているという事。
防衛有利なダンジョン戦、油断できない相手だ。
「マシロ、内部を調査する部隊の編成をまかせたい。まずは1チーム5人。3部隊で、合計15人だ。……かなり危険な任務になる。精鋭メンバーの中から選んでくれ」
「わぅ。命をかける覚悟は、みんな出来ています。おまかせください」
狭く、広さの限られたダンジョン内では……地上の時のような、数の利を活かした大部隊での行動は、逆効果になるだろう――少数精鋭の部隊で、調査と攻略をする予定だ。
本心としては、どんな危険な場所だろうと、一緒に調査に行きたい気持ちはある。それは魔人としての本能なのか、心がざわめき、体がうずきだす。
だけど……多くの配下モンスターの命を背負う『指揮官』として、それはしてはいけない行為だろう。
頭ではわかっているけど、どうしても体がうずいてしまう。仲間を信頼して任せるというのも、『指揮官』としての、器と覚悟が試されるのだろうか。
「わぅ。調査隊のおかげで、内部の地形はかなりわかってきましたね」
「うん。わりと広さはありそうだなぁ。それと、小さな怪我でも負傷した者はちゃんと呼んできてくれ。治療はまかせてほしい。」
被害を出しながらも、交代で調査に向かう配下達を見守る。
……指揮官とはいえ、何かをしていないと、どうしても気分が落ち着かない。
およそ半日近くをかけた、決死の調査。3名が死亡。2名が重傷になるという被害を出しながらも、内部の構造がわかってきた。
地下1階と2階は迷宮のような洞窟タイプ。地下3階には森が広がっていて、強力な個体が多数発見されており、そこが『主戦場』になりそうだ。
「調査隊から5名。あとは本隊として……俺自身を含めた、守護者と精鋭の少数でいくぞ!」
「わぅ。ぜったいに無茶はしないでくださいね」
ダンジョン内部の調査では、犠牲となったコボルト達もいる。今はなるべく考えないようにしているが、どうしても思ってしまう。
『もっと、上手いやり方があったのではないか……?と』
たらればを言い始めればキリがない。
反省をするなら、すべてが終わってから。頭ではわかっている事なのに、心が納得してくれないという矛盾。
今は……目の前の事に集中して、一つ一つを確実にこなす事だけを、冷静に考えないと……。
守護者達が勢揃いする中、体の大きなソラは居残りだ。立ち上がると、身長だけでも2メートルを超え、更に横幅の大きい翼を広げて動き回るには、このダンジョンは狭すぎる。残った本隊の護衛をまかせる事になった。
「ソラ。残る事になった、仲間の事はまかせたぞ」
「キュ……。ソラも、ダンジョン、いきたいー!!」
駄々をこねるソラを、なんとか必死になだめるマスター。
ドラゴンが地団駄を踏むという、珍しいハプニングもあったが、なんとかソラに納得してもらい、いざ出発の時だ。
調査隊として潜ったメンバーの案内によって、所々に戦闘があったと思われる痕跡などを通過しながら、ダンジョン内部を進んでいく。そして、ついに3階層の森林地帯へとたどり着く。
「さっそくお出ましか……」
「わぅ。待ち構えていたみたいですね。注意しましょう」
2階層から階段を下り、3階層の森林地帯へと入った先の、少し開けた空地。ただならぬ気配を発する、敵の集団を発見する。
ダンジョンの中でも強敵と思われるキラーエイプや、新種のモンスターを従えて、まるでこちらが来る事がわかっていたかのように、悠然と待ち構えている。
敵の数は、キラーエイプ10体程、新種が3体、そしてボスらしき存在だ。
(魔眼、鑑定!)
【 種族 】クレイジーエイプ
【 名前 】
【 レベル 】37
【 魔力 】353
【 加護 】筋力増幅 ダンジョンの眷属
【 スキル 】魔力操作4 統率1 剣術4 体術6 隠密2 身体強化6 感知系:気配4 魔力3 魔法系:風3無5
【 種族 】ガーディアンエイプ ダンジョンマスター
【 名前 】ナンバースリー
【 レベル 】46
【 魔力 】558
【 加護 】筋力増幅
【 スキル 】魔力操作5 統率4 剣術5 体術6 隠密2 身体強化6 感知系:気配4 魔力4 魔法系:水3土3無5
表示された情報から、素早く相手のタイプを見極める。
クレイジーエイプは、青い毛皮を纏い、4本腕の姿に長剣を2本持っている。風魔法と、筋力・身体能力を活かした剣術タイプなのかな。
ガーディアンエイプは名前からして気になる点はあるけど、黒と赤の毛皮を纏い、戦闘能力は水・土魔法と、筋力・身体能力を活かしたタイプかな?コボルトから奪ったと思われる『日本刀』を持っている……気に食わない奴だ!
ダンジョンマスター同士、本能で何かを感じ取ったのか――
見定め合うように、お互いの視線がぶつかる。
きびしい表情で睨むようなレンディとは対照的に、ガーディアンエイプは……余裕を持った表情で、にやりとしてみせる。
両陣営が静かに見つめ合うという……異様な光景の森の中。
ついに、戦局が動き始める――
「あの黒と赤の4本腕がダンジョンマスターだ。出し惜しみは無しだ!全力でいくぞ!!」
「わぅ。大太刀の威力、見せてやります!」
自分自身の気持ちを高めるかのように、声を張り上げるマスター。守護者や配下モンスター達も、それぞれに自分自身を鼓舞し、声を上げる。
ガーディアンエイプ達も、こちらの様子を感じて、慌ただしく奇声を上げて興奮しだす。
大陸から切り離された、小さな離島。
『弱肉強食』という言葉通り、命を掛けたダンジョンマスター同士の決戦が、今始まる……。
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