第7話 収録後

           *


コボノボトボクブギビデベワバタバシビハバこのとくぎでわたしはーーいだっ……』


 キラキラキラ……


「……じゃあまた来週ー!」


             *


 プチッ……


 見なかった……俺は、テレビなんて、見なかった。


「あっ、新谷さん。よかったですよー」


木葉このは……今、俺に話しかけるな」


 流血なんて放送事故だぞ……なにキラキラモザイクにしてごまかしてんだよ。というか、カットしろよ。


 今日は第3回の収録日。楽屋で第2回の放送を確認してたら、案の定ヤバいVTRだった。今後の番組の方向性が激しくわからない。いったい、あのスタッフどもはなにを考えているのだろうか。


「そんなことより、梨元プロデューサー呼んでますよ」


「……」


 なんなんだ。何の用なんだあのオッサンは。


             ・・・


「失礼しまーす」


 部屋に入ると、梨元さんが腕を組んで立っていた。


「見てたよ。凄く面白かった」


「……セネガル戦ですよね?」


 あんた、ジャパンのユニフォーム着ながら、なに言ってるんだ。


「特に前半……まさかの点の取り合いで……」


「セネガル戦ですよね!」


「後半の本田も素晴らしかった!」


「セネガル戦!」


 だいたい、後半の本田梨々香、喋ってねーし!


「くっ……君は日本を応援しようと言う気がないのか!?」


「と言うかアンタは凪坂46を応援せんか!」


 はぁ……はぁ……


「ところで、君の推しメンは見つかったかね?」


 ……急に話が変わったな。


「いえ、と言うかMCってのは誰かを贔屓したりするもんじゃないでしょう?」


 どう面白くさせるか、どう魅力を引き立たせるか、新米ではあるけど、そこはわきまえているつもりだ。


「ふっ……甘いな」


「甘い?」


「君はアイドルMCに必要な条件を全然わかってないな」


「……」


 必要な……条件……


「わからないかい?」


「……はい」


「愛だよ、愛。彼女たちを愛すること。それが、一流のアイドルMCとなる絶対条件だ」


「愛……」


 あのポンコツどもを愛する……


 激しく自信がないんですけど!?


「だから、彼女たちを存分に贔屓しなさい。彼女たちの個性を見て、いいところは褒めて、悪いところはイジる」


「……はい」


 やはり、腐っても伝説のプロデューサー。言うことが深すぎる……


「ところで、今日、君に来てもらったのはキャプテンの件なんだ」


「キャプテンですか」


「ああ、凪坂46のまとめ役であり、彼女たちのリーダー。今まで彼女たちのMCとして、公式お兄ちゃんとして、凪坂46を一番近くで見守ってきた君にこそキャプテンを選んでもらいたい。僕は、そう思ってるんだ」


「梨元プロデューサー……」


 そこまで俺のことを。


               ・・・


 って俺、彼女たちと会ってまだ2時間なんですけどー!?


「あ、あの……さすがに荷が重すぎると思うんですけど」


 そもそも、会ったのすら初めてだったし。まだ半分以上、顔も覚えてないし。


「君に……この凪坂46の命運を託したいんだ。いや、彼女たちを、託せるのは新谷大二郎君……君しかいない!」


 ……凄い期待されてるー!?


「いや! 俺なんか全然です!」


「君ほど彼女たちを愛してる人はいない。僕の目に狂いはないよ!」


 ……いや激しく節穴なんですけどー!?


「なんならアイツらのことを激しく嫌いになりかけているぐらいなんです。愛なんて、とんでもない。むしろ、憎いぐらいなんです」


「ふっ……照れちゃって」


 ……おい、おっさん。


「とにかく! キャプテンは梨元さんが選んでください」


「むぅ……仕方がない……まあ、僕の中では決まってるけどね」


「だ、誰ですか?」


「……長谷部」


             ・・・



















 いや西野ジャパンー!?









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