第6話 収録



 柿谷芽衣(うんばば娘)がスッキリした表情で着席している一方、俺は心の中に大きな傷を抱えたまま、第2回の収録を迎えようとしていた。メンバーたちも全員着席しており、数秒もすれば本番だ。


「……さあ、始まりました。凪坂ってナギナギー! 司会は新谷がお送りします。そして、彼女たちが……凪坂ちゃんだぁ!」


「「「……」」」


 に、2回目だろう? 休憩中にしっかり指導しとけよマネージャーども!


「さて、先週は生放送で3人のメンバーを自己紹介してきましたが、今日もやりますよー」


 と、言っても同日収録で2本撮り。放送タイミングは梨元プロデューサーが120パーセント視聴するであろう日本×セネガル戦のときだ。


「はい!」


 立ち上がったのは、小柄なセミロングの少女。目がクリクリな童顔で可愛らしい笑顔を浮かべる。


「種子島出身、鉄砲伝来は勇気の証、川島文香です!」


 き、君が守護神か。さっきの出来事が衝撃的すぎて、自己紹介が全然頭に入らねーよ。


「目標は……せ、センターです! よろしくお願いします」


 ……秘密裏に最後列のボッチにさせられそうになっていることを、君はまだ知らない。


「じゃあ、恒例だけど、なんて呼ばれてるの?」


「……守護神……です」


 でしょうね!


「じゃ、じゃあ次、いこうか」


「はい!」


 こちらも、ひときわ目を引くような美少女だ。透き通るような透明感で、薄い唇とスッと通った鼻が印象的だ。


 ……顔面偏差値は異常に高いんだよな、このグループは。


「可愛い子には、旅をさせろ! そして、その旅をしてるのは?」


「……」


「「「……」」」


          ・・・


 だ、誰かコールしてやれよ。


「……明日香ー!」


 自分で言ったー! すっごく可哀想ー!


「凪坂46のヒッチハイカー、琴音明日香です!」


 ……おい、涙目になってるぞ。


「しかし、ヒッチハイカーって……凄いね。外国とかでやったことがあるの?」


「はい、ブラジルで!」


 へぇー、ポルトガル語喋れるんだ。凄いじゃん。


「じゃあ、ちょっとやって見てよ」


「はい!」


 そう言って、元気よくた立つ琴音。結構。本格的にやってくれるその姿勢がすごく好印象だ。


「ヘイ! ヒッチハイク、プリーズ!」


 ……いや英語ー!?


「ホントかな! ホントに君はブラジルでそうやってやってたのかな!?」


「はい! 50回くらいしました!」


 はい嘘ー。


「……わかった。じゃあ、君のあだ名は?」


「正直者です!」


「正直者は自分で正直者とは言わないんだけどね!?」


 本当にロクなメンバーいないよね君たちは!


「……次、いこうか」


 とにかく酒が欲しい。


 今日は酒に溺れて、死んだように眠りたい。


「はい! じーんせい楽ありゃ苦もあるよ! ちっちゃなお尻がチャームポイント、水戸出身アイドル、伊藤レナでーす」


 水戸黄門とお尻をかけるとは……上手いな……そして、激しく失礼。


「伊藤は特技かなんかあるの?」


「バビ語が得意です!」


「バビ語?」


ハバイビはい!」


「おお!」


 なんか、アイドルらしい特技じゃん。


マバカバセベテベクブダバサバイビまかせてください!」


「いい感じいい感じ」


コボノボトボクブギビデベワバタバシビハバこのとくぎでわたしはーーいだっ……」


          ・・・


 ポタッ……ポタッ……

















 噛んで流血ーーーーーーーーー!!

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