第4話 収録後
第1回生放送終了後から30分が経過。2本目収録のため楽屋で待機していると、すでに携帯に100件以上のメッセージが入っていた。
『彼女たちの素材を全然活かしきれてなかった』『お前が公式お兄ちゃんなんて絶対に認めない』『お前のせいで全然面白くなかった。1秒でも早く降板して欲しい』『もっと林檎姫の出番を増やして欲しい』『彼女たちが可愛そう。世界で一番不憫なアイドル』『うんばば!うんばばばばばば、うんばばばばばばばば……』
・・・
「……」
そっと携帯の電源をきった。
見なかった……俺は、ツイッターなど、見なかった。
「お疲れさまです、新谷さん。よかったですよー」
「
もう少し休息が必要だ……じゃなきゃ、俺はアイツらをぶん殴ってしまうかもしれない。
「いや、そんなことよりも大変なんですって!?」
「……俺は今、芸人生活を投げうってあのポンコツどもをぶん殴ってやろうと思っているのに、そんなこととはなんだ!」
なんなんだこのツイッターの炎上は! 俺がなにかしたか!? 俺がいったいなにをしたと言うんだ!
「なんと、あの梨元プロデューサーが新谷さんに会いたいって言ってるんですよ!」
「……えっ、嘘……木葉ちゃん」
それ早く言ってよー。
梨元プロデューサー。言わずと知れたBKA49グループのあぜ坂46グループの創始者である。ミスターTVと言っても過言ではない彼とのパイプができれば、この芸能界の歩む道は明るい。
早速、彼がいると言われる、打ち合わせ室へ向かう。
コンコンコン。
「失礼しまーす」
中に入ると、メガネをかけたおっさんが、なにやら駒を並べている。このお方が……梨元プロデューサー。その真剣な表情に、なんとなくオーラを感じてしまう。
「……おお、来てくれたな。新谷君」
な、名前を覚えてくれている。
「こ、このたびは番組MCという大役を頂きましてーー」
「まあ、堅っ苦しい挨拶はやめよう。それより、君はどう思う?」
そう言いながら、梨元プロデューサーは並べた駒を指差す。
「……あの、これはなんでしょうか?」
「凪坂46の……新しいフォーメーションだ。これを考えていて、最近はあまり眠れていないんだ」
「そ、そうですか」
梨元さんと言えば、超がつくほどの大物で、星の数ほどアイドルを抱えている。そんな中、一つのフォーメーションにこれだけの時間を割くとは……
あのポンコツどものどこにそんな期待を!?
「まあ新谷君、座ってくれ。このフォーメーションをどう思う?」
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「……センター1人が一列目ですか。恐ろしく攻撃的ですね」
あのポンコツ小娘たちの1人に……この凪坂46の命運を託すということか。さすがは、勝負師と言われるだけのことはある。
「いや、逆だよ……1が後ろね」
!?
「1人で最後列ですか!? 可哀想くないですか!」
「なにを言ってるんだ! 重要なポジションだよ……守りの要だよ!」
「そ、そうなんですか……じゃあ、ダブルセンターってことですか……」
これは、また奇抜でトリッキーな。
「と言うか、2トップだけどね……」
「……そうですか」
一緒じゃん、と心の中でツッコむ。
いやしかし、レジェンドである梨元プロデューサーのことだ。そこの呼び方になにかこだわりがあるのかもしれない。
「今、迷ってるのがもう一つあるんだ」
そう言って、梨元さんは駒を並べなおす。
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「どうしても最後列はボッチなんですね!?」
激しく可哀想なんですけど!
「なにを言っているんだ、守護神だよ!」
ものは言い様だな!
「しかし……前列が3人で、その中心がセンターですか」
スタンダードといえば……まあ、スタンダードか。
「と言うか、3トップね」
「そ、そうですか……」
やはり、呼び方になにかこだわりがあるのか。
「しかし、素人目で申し訳ありませんが、フォーメーションてそんなに重要なんですかね」
「当たり前だよ。これによって、攻め主体か守り主体、はたまたカウンター主体かが決まるんだから」
「か、カウンター主体?」
「まあ、もっと重要なのは人選なんだけどね」
「それはそうですよね」
誰を選抜に……そして、センターに入れるか。それで、凪坂46の命運が決まると言っても過言ではない。
「一人はもう……決まってるんだ」
「……誰ですか?」
やはり……センターか……ゴクリ。
「1番……川島文香」
!?
「サッカーじゃないですか!?」
あんた……もしかして……
「本田梨々香は……エースか温存か……」
「サッカーじゃないですか!?」
テメーの頭、裏番組のセネガル戦でいっぱいか!
「……香川も捨てがたいが」
「そんな子いません!」
「長友……」
「いません!」
流石にあのポンコツ娘たちが可哀想だろう! 完全にこのおっさんの頭、裏番組のワールドカップだよ。
「……逆にサッカーとアイドルと……どう違うと言うのかな?」
ゴゴゴゴゴゴゴ……
む……無駄にカリスマだな!
「とにかく、川島が1人で最後列は勘弁してあげてください!」
さすがに不憫すぎる。
「むぅ……確かに、ミスはした……しかし、僕は彼女を信じて使ってあげたい!」
「最後列でボッチはやめてあげてと言っとるんです!」
いい加減サッカーから離れろや、おっさん!
「くっ……君のお陰でまた寝不足だよ!」
「どう考えてもワールドカップの見過ぎですよね!?」
オタクの脳みそサムライブルーでしょすでに。
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