熱愛
その日は、ツイッターのメッセージが炎上していた。しかし、それもいつものこと。ネタを考えていたのでスルーした。事態を把握したのは、木葉が自宅にノックもせずに入ってきたとき。
「新谷さん! 大変です、これ見てください」
駆け込んできて雑誌を机の上に叩きつけた。
「な、なんだーー」
目に飛び込んできたのは、
週刊誌『サタデー』での一面。
『人気グループ柿谷芽衣が篠田康生と熱愛!?』
その文字を瞬間、全身から鳥肌が立った。すぐに、掲載されているページを開くと、仲良さげに手を繋いでいる写真が2枚収められていた。それは、先日目にした光景と全く一緒だった。
それから。
信じられないくらいネットが騒いだ。ツイッターもYahooニュースも。それが、あたかも本当かのようなニュースも、馬鹿げているうわさばなしのようなものも。
カーテンを開けると、報道陣が軒並み待機していた。
「新谷さん、絶対に口を開かないでください」
「……」
「この件は非常にデリケートに扱わなければいけません。かばっても、けなしても、あなたの発言は絶対に言葉尻を切り取られてYahooニュースにのって、歪曲されてツイッターでつぶやかれます」
「……」
「あなたが彼女のことを心配してるのはわかります。守ってやりたいって思ってるのも。でも、なんにもできないんです。彼女の周りはあの数倍の記者たちが張ってます。もちろん、他のメンバーたちも」
「……」
「これからのことは運営スタッフと梨元プロデューサー、番組スタッフで考えて結論を出します。いいですか?これは、あなたが口を出すべき問題じゃないんです。多大なお金と責任が絡むお話です」
「……」
「とりあえず、今日は収録をやるそうです。一度メンバーを集めて戒厳令をしく気かもしれません。どう転ぶかはわかりませんが、それまでは辛抱してください」
「……」
それから、木葉が横でガッチリと同行してマンションの外に出た。
パシャパシャ……
シャッターが焚かれ、まるで犯罪者のように追い立てられる。
「新谷さん、柿谷芽衣と篠田康生さんと熱愛は本当なんですか?」「ねえ、インタビューお願いしますよ」「あなた、公式お兄ちゃんなんですよね。なにか知ってますか?」「ねえ、教えてくださいよ」「今のお気持ちを率直に教えてください」
「……」
なんなんだお前らは。
ただ、ひとりの女の子が恋をしただけじゃねーのか。
「ファンの気持ちを裏切った行為じゃないですか?」「アイドルは恋愛禁止なんですよね? そのルールを破っていいんですか?」「ファンの方々はどう思いますかね?」「これは46グループへの裏切りじゃないんですか?」
「……」
そうやってワイワイ騒いで。
ルール違反だなんて高らかに叫んで。
好きな気持ちを我慢しろって。
気持ちに蓋をしたまま生きてくことを。
自分の気持ちに嘘をついて生きろって、
大人が子どもに言うのかよ。
「ファンに一言もらえますか?」「これってファンに対して申し開きできますか?」「できないですよね。これからの活動を教えてください」「ファンに対しての謝罪は?」「ファンに対して一言くださいよ」「ファンに対してーー」「ファンに対してーー」
「……」
ファンの代表みたいなツラして。
ファンが彼女たちにどんなことを求めてるかも。
どんなことが救われたのか知りもしないで。
どんなところが好きかも知らないで。
ファンのことを一番バカにしてるお前らが。
こんなことで嫌いになるって思ってるお前らが。
さも知っているかのように語んなよ。
「……」
「新谷さん、行きましょう」
腹がたつ。
なにも知らないでいろいろ聞きたがるマスコミに。
なにも知らないでいろいろ吹き回る自称ファンに。
「……」
「新谷さん、新谷さんったら……早く」
腹がたつ。
あいつの気持ちをなにもわかってやれなかった俺に。
あいつの想いを知っててもなにもしてやれなかった俺に。
「……」
それでも……そんなあいつのために、今、なにもしてやれない俺に。
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